第96話 お菓子
まぶたを開けると、私を覗き込む顔が目の前にあった。
「あ! 起きた!!」
仰向けに寝る私の体に跨り、凛が顔を覗き込んでいる。
「ちょっと! 何してるの!?」と口に出そうとするが、声が出ない。代わりにゾンビのようなうめき声が耳に届く。
「本当に心配したんだよ」
凛が私の顔を見下ろしながら、目を滲ませ、ポタポタと私の頬に熱い涙を落とす。
「ごめんね」と言おうとするが、声が出ない。
「ほらほら、馬乗りになってたら、小夜ちゃんの息ができないだろ」
ベッドの周囲を囲うカーテンの隙間から今井君が顔を覗かせる。
「善くんは早く魔対の人達呼んできて!!」
「了解した!」
顔を引っ込めると、今井君は全速力で走り出した。
凛がベッドから降りると、ペットボトルに入った水を持ってきてくれた。それにストローを差し込み、ストローの先を私の口元に近づける。
水を吸い込み、口の乾きが潤う。
「ありがとう。ここはどこ?」
「医務室だよ」
「そんな所があったの?」
「私も初めて知った」
凛に話を聞くところによると、あの後私と主任は大賀補佐達に助け出され、医務室に運ばれたらしい。
凛と今井君には課長のはからいで事情を伝えられ、目が覚めるまで側にいて欲しいと言われたそうだ。
額に手をやると、包帯でぐるぐる巻にされていた。
「マッスー主任は?」
「あの業務用冷蔵庫みたいな人?」
やはり、思うことは同じなのだ。
私は頷く。
「シップ貼って、課に戻って行ったよ。凄い悔しそうな顔をしてたけど」
あれだけの攻撃を受けて、湿布で済むとは、恐ろしい人だ。
「それと、小夜にこれを置いていったよ」
凛がカーテンの外から小さな机を抱えて持って来た。
机の上には溢れんばかりにジュースやお菓子が積まれている。
「まだまだ、外にいっぱいあるよ。冷蔵庫主任とか、魔対課の人達からとか、他の課の人からもたくさん届いてるよ」
お菓子を1つの手に取ると、四角い付箋が貼られ「ビッグバンさんへ」と書かれている。
「小夜の人気は凄いね。話を聞いた人達がみんな医務室に置いていくの、廊下に専用テーブルが設けられたぐらいよ。お菓子だけで1か月生活ができると思う」
嬉しい反面、お見舞いの品の大半にビッグバンと書かれているので複雑な気持ちになる。
「私一人では食べ切れないから、一緒に食べましょ」
凛は「やった」と声を上げ、お菓子を1つの手にとった。お腹が空いていたのだろう。
ひょっとすると、私の側にいる間、ずっと何も食べていなかったのかもしれない。時間を訊くと、午後11時をまわっていた。私は半日寝込んでいたのだ。
2人で話しながらお菓子をつまんでいると、今井君が戻って来た。後ろには課長をはじめ、課の全員がいる。
慌てて、お菓子を片付け姿勢を正す。
「勝手な行動をとってしまい。申し訳ありません」
私は頭を深々とさげる。
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