第92話 お茶会

私はメイちゃんと向かい合って座り、出された紅茶を口にする。きっと良い茶葉を使ったダージリンなのだろうが、味を感じない。


「お味はいかがかしら?」


「うん、美味しい」

私は咄嗟に嘘をつく。


両脇に座る男女の人形は、私を見上げ「タスケテ、タスケテ」と口にする。


「今はその話をしていないのよ。お茶が足りないようね」


メイちゃんは静かに言うと、ティーカップを持ち、男の人形の口につけ、紅茶を飲ませる。

ゴポゴポと苦しそうな声をあげ、口から溢れ出た紅茶が床にこぼれ落ちるが気にした様子はない。


その様子を見て、女の人形は口を閉じる。



「もう辞めてくれ。何でもするから許してくれ」

正気を取り戻した男の人形は、メイちゃんに対して懇願する。


「今はお茶会の時間なの、パパ、お客様の前で恥ずかしいでしょ」


頬を膨らませ、不満顔でパパと呼ぶ人形を睨む。

人形は黙り込み、私の方を向くと口を開け、パクパクと動かした。


何を訴えているのかは、嫌でもわかる。


男の人形をパパと呼ぶのだから、反対に座るのはママなのだろう。彼女は両親を見つけ出し、魔法で人形に変え、テーブルを囲んでいる。


ティーカップを持つ手のひらに、汗がにじむ。

この状況は狂気でしかない。


「マカロンも召し上がれ」

お皿に色とりどりのマカロンをよそい、私の前に置く。


「メイ、マカロンって初めて食べたの。紅茶にあって素敵な食べ物ね。でも、わからないの。マカロンはフォークで食べるべき? 手で食べるのは無作法じゃないかしら」


「さあ、クッキーも手で食べるから、いいんじゃない?」


私の答えに「それもそうね」と納得した様子で、マカロンをつまみ、口にする。


「食べてみて、おいしいよ」


私はそんな話をしに来たんじゃない。



姿も話し方も知っているメイちゃんだが、彼女は大勢の人を魔法で人形に変え、両親を椅子に縛りつけている。


「メイちゃん」

紅茶を飲んだはずなのに口は乾き、声が枯れている。



「あなた、自分が何をしたのかわかっているの?」



私の問いに、首を傾げる。

「なんのことか、わかんない」



「あなたがたくさんの人を人形に変えたことよ」



「ああ、そのこと」

メイちゃんは納得した様子で、意地悪く笑う。

「小夜ちゃんには関係ないじゃない」


「関係あるの!どうやったらこの人達を元に戻せるの!!」


つい声を荒げてしまう。

メイちゃんは気分を害し、顔をしかめる。


「お茶会では大きな声を出さないの。それがルール」


人差し指が私に向けられ、私はたじろぐ。

光は発せられない。代わりに、メイちゃんは人差し指を上に向けた。




「メイと楽しくお茶会してくれたら、教えてあげようかなあ」


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