第91話 お客様
私が答えられずに固まっていると、戸がひとりでに音をたてて開いた。
リビングには小さな丸テーブルが置かれ、装飾された白いレースのテーブルクロスが敷かれた上には、金で細工された高価なティーポットとティーカップ、洋菓子が積まれたお皿があった。
テーブルの両側には小さな椅子に紐で縛られた男女が、首を曲げ、顔に付いたボタンの瞳で私を見つめている。
「これは素敵なお客様ですね」
テーブルを挟み、正面に座るメイちゃんは羽根つきの黄色の帽子を被り、中世ヨーロッパの貴族ような黄色のドレスを着ている。
手にティーカップを持ち、一口すする。
「わたしのティーパーティーへ ようこそ」
記憶にあるメイちゃんに違いない。
でも、少し違う。私の知っているのは引っ込み思案で気の弱いメイちゃんだが、正面に座る人物は自信に満ち溢れた顔をしている。この世に怖いものはない、といった表情で。
「久しぶりね」
私が声をかけ、部屋に踏み込むと、メイちゃんは私を指差した。
「その服装はメイのお茶会には似合わない」
私の身体が眩い光に包まれる。
人形にされた、という思いが脳裏をよぎったが、そうではなかった。一瞬で光が消えると、着ていた作業着が深緑色のドレスに変わっている。
「前から小夜ちゃんはその色が似合うと思ってたの」
そう言うと、メイちゃんはもう一口、ティーカップから紅茶を飲んだ。
「おかけになって、お茶会は始まったばかりよ」
どこからともなく、ティーカップをもう一つ取り出すと、両手でティーポットを丁寧に傾け、紅茶を入れる。
私は違う人の身体を動かしているような感覚で、足を踏み出す。靴も深緑色のヒールが高いドレスシューズに変わっている。
リビングルームに入ると、異様な事に気付いた。
壁のクロスは破れ、テレビ画面は砕け、棚は倒れ、ガラスの破片が床に散乱している。
彼女の座るテーブル周りだけが、別空間なのだ。
私は思い出す。
彼女と私はよく一緒に、ぬいぐるみ相手にお茶会を開いていた。食器を借りて、思い思いのお洒落な格好で着飾り、空想の会話をする。
彼女はおママゴトが好きだった。
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