第70話 お猪口

「猫は人間の所有物ちゃうぞボケがぁ!」

リゾットを食べ終えたミカンさんは、酒をあおり荒れていた。


「猫さんの自由気ままな生き方は尊敬します」

ミカンさんのお酒がなくなると、私が酌をする。


「ええこと言う子やんか、君はええ子やね気に入った」

酔うと何故か大阪弁になり、訊くと出身は西の生まれとのことだった。


「なんでウーロン茶を飲んどるん?」

私を見る目がすわっている。

これはこれで怖い。


「いえ、私はお酒を飲んでやらかしたばかりで、自主的な自粛中でして」


「やらかしたって、何をやったん?」


「相撲をね」

大森さんが笑いを噴き出しながら変わりに答える。

「あれは見ものでしたね」

大賀補佐も冷静に感想を述べる。



「泥酔すると、、とっちゃうんですよ。相撲」



ミカンさんは大笑いしながら、2本の尻尾で私の背中をバシバシと叩く。


「相撲いうたら、相手はあれか、、カッパか?」


妖環課の補佐の事だろう、化け猫なので恐らく知っていても不思議はないことなのだろう。


「いえ、その部下の方で、記憶はないですが負けたみたいです。背負投げで」


「隠さなくてもいいじゃない」

大森さんも酔いがまわったようで顔が赤らんでいる。

「小夜ちゃんは、河童補佐を馬乗りタコ殴りで勝ちましたよ」


ミカンさんは笑い転げて、お腹を抱えて丸くなっている。


「あれはとてもスカッとしたわね」

大賀補佐は日本酒を飲みながら、あの光景を思い出しているのだろう。私は恥ずかしさで耳が赤くなる。


「マジか。俺はそんな化け物の首を絞めてしまったのか」


テーブルの上で脚を整え、綺麗な土下座をする。

「先日は、申し訳ありませんでした!!!」


「辞めてください! 本当にもう辞めて」


みんなの笑い声が増す。


「私のお酒も飲め、否、飲んで下さい」

ミカンさんが徳利を持って私に向ける。


「そのお酒は飲んでおいた方がいいぞ」

人形が私とミカンさんのやり取りを見て言う。


「化け猫と酌を交わす。それはとても栄誉なことで、中々できることではない。とても貴重な経験になるだろう」


「安心しなさい」

ミカンさんは私に徳利を向けたまま言う。

「私も相撲には少々自信があります」


テーブルに置かれたお猪口を手に取り、ミカンさんの方に向ける。


「それでは、お言葉に甘えて」


お酒が注がれたお猪口でミカンさんと乾杯して、飲む。フルーティーな風味で飲みやすい日本酒だった。



とても飲みやすく、途中から記憶がない。


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