第69話 自信喪失
「その女の子は普通の人間の子供に見えたのですが、たち振る舞いが妙に達観しているというか、大人びているというか、私が言うのも変ですが、この世の者ではないように感じたんですよ」
再び、リゾットに手をつけ、フーフーと息を吹きかけ、美味しそうに食べる。
私は座布団に座り直すが、心理的にミカンさんから少し距離をとってしまう。
「幽霊や物の怪を恐れないとなると、まず何らかのかたちで、この業界と関わっている者であることが考えられるが」
人形が言うと、大賀補佐は深くため息をついた。
「達観しているという点で、魔法使いの可能性が高いですね。魔法使いになると、社会や物理の常識から逸脱するため、言ってしまえばこの世の者ではなくなります」
「あの子が魔法使いだったのですか。確かに、今言われてみると納得します」
「それから何があったんですか」
「女の子に声をかけられて驚いたのですが、百鬼夜行のルールとしては、一般人に見られた場合は驚かせて安全な場所に逃がすのが原則ですので、先程の話みたいな例外を除いて、泥酔していない一般人への対応は厳格です」
「そこは実行委員が苦労して規則化した成果だ」
人形が嬉しそうにお猪口にお酒を注ぐ。
「なので、私も得体は知れないですが、立ち退いてもらおうと激しく威嚇しました」
本気のミカンさんを想像して、また冷や汗が身体をつたう。
「それでどうなったんですか?」
ミカンさんは深くため息をついた。
「微塵も恐れることもなく、言われました。『悪い猫ちゃんだ』と」
悪い猫ちゃんだ。
先程の形相を見て、とても口走れない言葉だ。
「正直、自信を失くしました。私はこれでも化け猫見習いとして、良い成績を収めていた方なのですが、全てを打ち砕かれた気持ちでした」
「それから、白い眩しい光で目が眩みました。目を擦って、目を擦って、周囲を見ると、浜辺にいました。一瞬で違う場所に飛ばされたんです。その光が発せられる時に言われた言葉は今でも忘れられないです」
ミカンさんはリゾットを見下ろして、辛そうに声を搾り出した。
「悪い猫ちゃんはいらない」
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