第64話 路地裏

「大森さんは本当に幽霊が視えるの?」

路地裏を歩き、化け猫見習いを探しながら訊くと、大森さんは頷いた。


「ひょっとして、その眼帯を付けている方の眼が幽霊視えるとか?」


驚いた顔をして、大森さんがこっちを向いた。白字で「邪気眼」と書かれた黒い眼帯を見つめてしまう。


「いえ、こっちの眼は何も見えないの。視えるのはこっち」

眼帯をつけていない右目を指差した。


「ほら、今も小夜ちゃんの背後にお婆ちゃんが」


私が動揺して後ろを振り向くが、そこには誰もいない。

その様子を見て、大森さんはクスリと笑う。


訊いてはいけない事を訊いてしまったかな。と心の中で反省する。どんな理由で潰れてしまったのかはわからないが、その左目を敢えて冗談めかした眼帯で隠しているのだ。



路地裏を歩きながら、化け猫見習いを探すが、時折見かけるのは普通の野良猫だけだった。


「いないみたいですね」


大賀補佐が道にあった自動販売機でジュースを買ってくれた。私達は頂いたジュースを飲み、少し休憩する。


「困ったものね。犯人を知っている唯一の目撃者かもしれないのに。ここで間違いはないのですよね」


大賀補佐が訊くと水筒から水を飲み、人形は頷き指差す。

「間違いなくここです。そこの排水溝で吐きました」


指差す先が私の足元だったので、慌てて飛びのく。

しかし、面長のツヨシさんが誘拐されたのは先月のことなので、そこに吐瀉物の影はない。


化け猫見習いのミカンさんも、流石に1ヶ月も同じところにいる訳ではないだろう。


「私、ちょっとあそこの人に聞いてきます」


大森さんがそう言うと「すみませーん」と言いながら、走り出した。そこには誰もいない。


誰もいない所に向かって話しかけている。

数分すると、見えざる人に手を振って戻って来た。


「ミカンさんの知り合いの方でした。今の時間ならごはん屋さんにいるみたいです。『裏飯屋』というお店、知ってます?」



人形がよっこらせと、立ち上がる。

「その店ならすぐそこだ。幽霊と妖怪に人気な居酒屋チェーン店だ」


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