第57話 事情聴取
課長に連れられて霊魂地域福祉課の2人には退室してもらい、私は大森さんに小さく手を振るが、彼女は小さくうつむくだけだった。
「それでは事情聴取としましょうか」
大賀補佐が人形と向き合う席に座る。
私は話の内容を記録するように指示され、大賀補佐の横に座り、自分のメモ帳を取り出す。
「あなたは何を覚えていますか?」
「ココはドコ?」
人形は大賀補佐に視線を合わさず、不安定に首を回しながら、部屋の隅から隅を見ている。
「ここは魔術防災対策課の会議室です」
「お前、ダレ?」
「私は魔術防災対策課の課長補佐の大賀です」
「ココは、ドコ?」
質問をするが、答えを聞く気をないようで、大賀補佐の言葉にかぶせるように同じ質問を発する。
「ここは魔術防災対策課の会議室です」
大賀補佐は冷静に同じ回答を繰り返す。
「貴方は誰ですか?」
「頭がワレそうだ」
人形は机に頭をのせ、両手で頭をおさえた。
「キオクがぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ」
小刻みに震えながら、同じ言葉を繰り返す。
「何か覚えていることはありますか?」
大賀補佐の声で、人形はピタリと動きを止め、ムクっと頭をあげる。今まで頭が痛いと言っていたのは嘘のように、手を下げ顔をあげる。
「オレは路地裏を歩いてイタ。サケに酔っていた」
黒いボタンの目で大賀補佐を見つめ、人形は饒舌に話し始める。私達は黙ってそれを聞く。
「声をかけラレタ。オンナの声だ」
「クラくて顔がワカラナイ」
「急にまぶしくナッタ」
「アトはワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ」
口を大きく開け、壊れたおもちゃのように小刻みに震えながら繰り返す。
真っ赤なフェルト生地の口からどのように言葉を発しているのかはわからない。喉もなく、舌もなく、歯もない。ぱっくりと開いた口には、真っ赤な生地が見えるだけだ。
「その女について、覚えていることがあれば教えてください」
震えが止まり、口を閉じると大賀補佐をまた見つめる。
「小さいコだ。ソコにいるコと同じくらいノ」
人形に首が曲がり、ボタンの目が私を見つめ、カタカタとまた小刻みに震え始める。
「オマエだ、オマエだ、オマエだ、オマエだ」
次の瞬間には、私の首は強い力で締められていた。
突如、人形は椅子を蹴り上げ、机の上を走り、私に襲いかかってきたのだ。抵抗する暇もなく、フェルトでできた両手が私の首を締め上げる。
バランスを崩し、背中から椅子ごと倒れ込み、会議室には大きな衝突音が鳴り響く。硬い床にぶつかり背中に激痛が奔るが、息ができず、声をあげられない。
視界には、私を見つめる2つの黒いボタンが映る。
「オマエは、オレに何をした!!!!!」
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