第56話 緑色のズボン

面長のツヨシと呼ばれる彼は、マッスー主任の同期であり、霊魂地域福祉課に所属していた。


1ヶ月ほど前から行方不明になっており、マッスー主任が彼だとわかった理由は、顔の特徴と緑色のズボンが理由だった。


主任いわく、面長のツヨシは緑色のズボンしか履かないそうだ。


人形は無害だと判断され、課長の指示で私は椅子に縛り付けていたガムテープを剥がした。記憶のとおり緑色のズボンを履いており、素材はコーディロイだった。



課長が霊魂地域福祉課の課長に連絡をとり、本人確認のために職員がすぐに来た。


会議室の扉が開くと、昼に新聞を貰った心霊写真のプロが立っており、その後ろに大森さんがいた。お互い気まずそうに会釈する。


心霊写真のプロは、行方不明になった部下ではないかといわれた物体に最初は驚いたが、顔の輪郭とズボンを見て、本人に間違いないと認めた。


「間違いなく私の部下だ」


上司の言葉に反応はせず、人形は静かに座ったまま、部屋にいる人をキョロキョロと見ている。


「どうしてこんな姿になったんだ?」


「それは調査中です。魔法が絡んでいるため、こちらで対応をします」


「こちらも最大限協力します」


「まず、彼が行方不明になった経緯をお聞かせ願えますか」

大賀補佐が手帳とペンを取り出す。


「そうですね。彼は霊魂地域福祉課の中で『夜の運動会実行委員』を担当しておりました。幽霊妖怪達が墓場で行う運動会なのですが、言うなれば毎晩酒盛りも兼ねておりまして」


ここで、彼は一旦言葉を切った。


「まあ、私達の課は仕事柄、行方不明者が出ることは珍しくないことでしてね。幽霊達は時間感覚というものが希薄で、彼らに付き合っていると、現世からよう消えるんですわ」


大森さんの顔が曇っているのを見た。


「でもまあ、神隠しにあったみたいに毎回ひょっこり帰ってくるので、あまり気にしないもんですが、今回こんなことになっているとは」


あらためて、部屋にいた者は椅子にちょこんと座る人形を見つめる。


人形はゆっくり首を傾げ、口を開ける。



「お前ら、ダレ?」


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