第55話 知人
課には別室があった。
普段は会議で使用する部屋なのだろう。
窓は無く、白い長机が1つ置かれ、囲うように椅子が並べられている。
その一脚に人形はガムテープでぐるぐる巻に縛り付けられているため、会議室というよりも尋問室と呼んだほうが正しく感じた。
「 これが巷で噂の正体か?」
課長が人形の頭をポンポンと無造作にたたく。
人形は煩わしそうにうめき声をあげ、ボタンの目で課長を睨む。全身をガムテープで巻かれているため、頭だけしか自由がきかない。
「そのようですね」
大賀補佐は手に持つ写真と見比べながら答える。
「ですが、正体の1つ。といったところですね」
課長は深くため息をつく。
「これがたくさんいるのか」
「これって、魔法なんですか?」
私が訊くと、大賀補佐は頷いた。
「非常に強力で悪意ある魔法だ」
「なんか人形が動いているのは、不気味な感じがします」
「違います」
大賀補佐がピシャリと言った。
「人形が動いているのではなく。何者かの手で人間が人形にされている」
私の背筋が凍った。
確かに、ヒナミさんも『カレ』と言っていた。
目の前で虚ろな眼をして椅子に縛られている物体は人形ではなく『人間』なのだ。
ドタドタと部屋の外で音がすると、勢いよく扉が開き、マッスー主任が駆け込んで来た。
「ついに捕まえたって聞きましたよ!」
額の汗を肩にかけていたタオルで拭いながら、椅子に巻きつけられた人形を見下ろす。
「これが噂の正体ですか、、、ん?」
「どうかしたか?」
課長が訊くと、マッスー主任は手をあごに当て、首を傾げた。
「なんか見覚えがあるんですよね」
人形はマッスー主任を見上げ、しばらく見つめ合う。
「教えて欲しいんですが、何色のズボンを履いていました?」
「緑色です」
私が思い出しながら答えると、マッスー主任はタオルで顔を拭い、もう一度人形を見て、深く息をした。
「彼を知っています」
マッスー主任は課長を見た。
「行方不明になっていた俺の同期の『面長のツヨシ』です」
その言葉に反応して、人形が口を開けた。
「タスケテ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます