第54話 野次馬
「うわぁーー!」
こちらに突撃してくる人形の気迫に恐怖し、構えたリュックサックの盾を前面に押し出し、その影に隠れる。
左腕に軽い衝撃加わり、鈍い音が聞こえる。
盾の影から見上げると、盾に手をかけよじ登った人形が私を見下ろしている。
悲鳴混じりの雄叫びをあげながら、私はがむしゃらに右腕を振り回すと、ペン先のインクが大縄のように振り上がり、人形は盾から引き剥がされて飛んでいった。
人形は地面に叩きつけられるが、関節のない腕が奇妙に動き、立ち上がろうともがく。
「先輩!どうすればいいですか!?」
先輩を見ると、いつの間にか人形を挟んで私の対面に立ち、人形にペン先を向けていた。
「ちょっと待ってろ」
先輩がペン先からインクを発射させ、私と同じように人形の背中に直撃する。
「やった!ぐるぐる巻にして生け捕りにするぞ!合図したら反時計回りに走れ!」
人形の手が地面を押し、膝をついた状態で半身が立ち上がる。
「今だ!!」
私と先輩は、人形を中心にして円を書くように走り回る。2本の深青色の紐が人形を縛りあげていく。
強力な粘着性のため、1度貼り付くと容易には剥がれない。人形はもがき苦しみながらも、徐々に身動きがとれなくなり、やがて固まった。
「先輩!やりましたよ!」
私が足を止めると、先輩が悲鳴をあげながら私の背中に思いっきりぶつかる。
もつれながら、2人で硬い地面に尻もちをつく。
「いきなり止まるなよ」先輩がずれた眼鏡をかけ直しながら、立ち上がり、倒れ込んだままの私に手を差し伸べる。
かぶっていたヘルメット状の帽子を外し、先輩の手を掴み、立ち上がると、喝采を浴びた。
周囲の人々が割れんばかりに拍手し、私達の行動を称える声がする。
呆気にとられ、つい反射的にお辞儀をした。
「貴方達、何やってるの?」
顔をあげると、前には大賀補佐が立っていた。右手で人形の頭を鷲掴みにし、左手で逃げ出そうとするヒナミさんの襟首を掴みあげている。
「これを捕まえたのはお手柄だけど、怪我をする前に私が来るのを待ちなさい。すぐに会社に戻るわよ」
大賀補佐は踵を返すと、掴んでいたヒナミさんの襟首を放した。
「ヒナミちゃん、野次馬達の記憶を残らず消しておいて、後処理は貴方にまかせるわよ」
ヒナミさんは肩を落とし、何処からともなく杖を取り出すと、周囲の群衆に向けて眩い光の光線を当たり構わず発射した。
野次馬達は突然の攻撃にパニック状態になり、悲鳴をあげながら、謎の光線を発射する女性から逃げようとするが、その背中を光が突き抜ける。
「ムダですよー。結界の外にはでれません。本当に、レンちゃん先輩は人使いが荒い人です」
逃げ惑う人々を追いかけながら杖を振るうヒナミさんの呟く声が聞こえた。
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