第53話 攻撃

「ペン先を人形に向けて構えろ」

先輩に言われ、万年筆の先を叫び続ける人形に向けた。


「手前側にアルファベットが書かれている所があるだろ、そこを捻ると文字が変わるから、Bに合わせろ」


万年筆を見下ろすと小さな窓があり、今はZと表示されていた。万年筆を捻ると、窓に書かれた文字が切り替わり、表示をBに合わせ、キャップを外す。


横を見ると、先輩も自分のペンを構え、ジリジリと前進している。私も先輩に合わせて前進し、囲いの内側に入った。


周囲の人垣から一歩前にでると、人の視線集まるのを感じた。誰もが声をかけて止めることなく、ただ好奇の視線を送っている。



「俺が合図したら、ゆっくりペンを握るんだ。そうしたら、ペンから粘着性のある紐がでる。それで捕獲するぞ」


先輩の言うことは、いまいちわからなかった。

なんでペンから粘着性のある紐がでるのか。聞こうとしたが、先輩は私のことなどお構い無しで、前に一歩進んでいた。


人形は空を見上げ、うめき声をあげていたが、パックリ開けていた口を閉じると、ぐるりと顔を曲げ、黒ボタンの瞳で、私達を見つめた。



「やばい!気付かれた!今だ!発射!」



先輩が雑な合図を送った。

私はペン先を人形に向けて、ゆっくり握りしめた。

ビッとペン先から深青色のインクが吹き出た。


直感的にインクだと思った液体は垂れることなく、凄まじい勢いで一直線に人形の体に当たると、貼り付いた。


私の持っているペン先から人形の体を紐状のインクで繋ぎ止めている。


「ナイス!」

先輩が親指をたてた。



「それで、どうすればいいんですか!?」



人形は自分に貼り付いたインクを見つめ、そのインクを剥がそうと右手をつけるが、今度は右手が貼り付いてとれなくなる。


あがくように乱暴にもがくが、動くたびにインクは体中に貼り付いていく。まるで蜘蛛の糸のようだ。


憤慨した人形は、インクの出どころである私を直視した。


感情のないボタンの瞳だが、この時は怒りがこもっているのが嫌でもわかった。


言葉にならないわめき声をあげながら、人形は私に向かって突進して来た。




「それで!どうすればいいんですか!!」




私も負けじとわめいた。



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