第51話 ヘルメット

ヘルメットの中は息苦しくもなく、視界も全体を見渡せて好調だった。


「これはどうすればいいですか?」

右手に万年筆を持ち、先輩に尋ねる。


「バッカ、こっちにペン先を向けるな!」

私の前から飛びのきながら、私の右手首を掴み、地面に向けて捻られた。


「すみません」

先輩の機敏な動きに驚きつつ、反射的に謝った。


「気をつけてくれよ。最悪、それで死ぬからな」


私はペン先を下に向けたまま、万年筆を見下ろした。

超・攻撃型万年筆。そんな危険な物を手渡されたのか。



ヘルメット越しに、ヒナミさんの軽い侮蔑がこもった顔が見える。


「ほんと、イノちゃんは変なものをつくるわね」


「私は、結構カッコいいと思いますけど」


アメコミのヒーローみたいでと、正直な感想を言うが、ヒナミさんは興味なさそうに、注意を前方の得体の知れない人形に移した。



「先輩、二人で大きな盾を持って、ヘルメットをかぶってるのに、どうして周りの人は気づかないのですか?」


私の隣の男性は、私の変身など気にもとめず、携帯電話で動画を取り続けている。


おおかた、答えは予想ついていたが、予想通りの回答が返ってきた。



「そういう魔法がかかっているらしい」



二度目の悲鳴があがり、どよめきの波が広がる。



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