第50話 盾
細い両腕でバス停の鉄柱部分を必死に掴み、好奇心と嫌悪の混ざった目と向けられる携帯電話のカメラレンズから、身を隠すかのようにしている。
しかし、平べったい胴体はとても鉄柱部分には隠しきれず、体の半分は見えている。
他に場所に逃げ込もうにも、周囲を囲まれているため、どこにも行くことができず、顔の口部分にある切れ込みがパクパクと怯えた様子で動いている。
口が開くたびに、顔の半分が後方に持ち上がるため、いっそうと人ならず者の異様さを醸していた。
「これは、かなり悪質な魔法だね」
ヒナミさんは顔をしかめながらも、口元は笑っていた。
この人だからなのか、魔法使いだからなのか、半ば状況を楽しんでいるのを私は直感的に感じた。それは、とても危険な人種の危険な性格だ。
「リュックを構えろ。被害がでるかもしれない。ディフェンススタイルだ」
先輩が慌てた声で私に言うが、意味がわからず困惑していると、先輩が強引に私の背負っているリュックサックを引っ張った。
「さっきイノさんのところでやってたみたいに、ディフェンススタイルにするんだ。これは実戦だぞ、そうだ、帽子とペンも出した方がいい」
慌てている先輩の手が小刻みに震えているため、私にも緊張感が伝染する。
「いいな、俺の真似をするんだ」
先輩は自分のリュックサックを腕に持つと、左腕を2本の肩掛けショルダーに通した。
元々何も入っていないだろう薄いリュックサックは、先輩の左手の前で更に薄く広がり大きくなった。
「盾だ」
私が呟くと、先輩は頷きつつ、頭にかぶった灰色のワークキャップのつばを掴み、顎下まで引っ張った。
灰色の布地が顔をすべて覆った時には、頭全体を守るバイクのフルフェイスヘルメットに似た形状になっていた。
先輩が手で目元部分を持ち上げると、視線が合ったので、最早バイクヘルメットにしか見えなかった。
先輩の目が早くしろと伝えているので、私も感動するのはひとまず後にして、リュックサックを肩からおろした。
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