第49話 悲鳴
「動いてるぞ」「何なんだあれは、、」「生きてるのか?」人々が口ずさむ合間を縫って、悲鳴があがった人だかりの中心に向かう。
ヒナミさんは魔法を使っているのか、彼女が一歩足を踏み出すと、自然に人混みが分かれ道が開く。
その後ろを先輩と私がピッタリとついて進む。
人混みを抜けると、大きく開いた円の中心に辿り着いた。最前列の人達はある一点を見つめていた。
私の隣に立っていた女性がその一点を指差しヒステリック気味に言った。
「なにあれ、ほんとキモい」
声を聞くと、さっき悲鳴をあげた女性だとわかった。
優雅にデパートでお茶でもした帰りなのだろう、真っ赤に手入れされた人差し指のネイルが示す先には、バス停があった。
しかし、バス停を指している訳ではない。
そのバス停に両手でしがみついている小さな人型の物体を指している。
「なんだありゃ?」
先輩が前方を見つめながら、気の抜けたセリフをはいた。
物体は私の膝ぐらいの身長をしており、腕と脚が異様に細い、緑色のズボンを履き、黄色のシャツを着ている。髪はフェルト質で、顔には黒い大きなボタンが2つ縫い付けてある。
それは、小さな人型の人形だった。
子どもの教育番組にでてくるような、裏で大人が糸で操り、手足が滑稽に動く人形に似ている。
昔、かじりつくように見ていたテレビ番組をふと思い出した。滑稽に動く人形を見ながら、みんなで笑い合っていた。純粋な瞳で見ていたその番組は、魔法の世界の様に感じていた憶えがある。
目の当たりにしているものは、その子どもの時の自分だったら、テレビの中の魔法の様に見れたかも知れないが、今の私が感じているのは、得体の知れない恐怖だけだった。
その人形は生きている。
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