第28話 電光石火

いやいや、不可能ではないか。

と思いつつ、先程つま先をぶつけた物体を避け、床に向けて手を突き出す。


突き出すものの、白煙に覆われ床が見えないため、本当に床があるのだろうか?と懐疑心に抱かれる。



そろそろ床に手がついても良いのではないのだろうか?



伸ばしても伸ばしても床に手がつかない。

それは、腰が引けてるからだ。

わかってはいるが、額に冷や汗が滲むのを感じる。



「なんですかこれは!!」

後ろで大賀補佐の声がした。


「すみません!!!」

瞬時に、謝罪の言葉が部屋内に響いた。



「年度初めから、やってくれますね」


ため息まじりの声から、額に手を当てている光景が目に浮かぶ。



「とりあえず、煙を何とかしないといけませんね」

パチンと音がすると、突風が巻き起こる。


白煙が吹き飛び、伸ばしていた指の直ぐ先に床のくすんだ白タイルが現れた。



振り返ると、薄赤色の扇子を持った大賀補佐が立っている。


「おはようございます」


「おはよう。貴方も初日から散々ね」


大賀補佐はパタパタと扇子を前方に向けてあおぎながら歩く、行先ではつむじ風が巻き起こり、先程の彼が床に這いつくばっているのが見えた。


「あった!あった!」


彼が掲げる右手には、製氷機で作った氷サイズの白い箱が掴まれていた。


箱からは絶えず白煙がもくもくと流れでている。まるで、暴走した加湿器のようだ。



「その『もくもくキューブ』を早く止めなさい」

そんなアンニュイな名前が付いていたのか。




「すみません!止め方わかりません!忘れました!」

また、瞬時に謝罪の言葉が響いた。



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