第27話 白煙

エレベータの扉が開くと、白煙が流れ込んできた。

怒涛の如くエレベータの籠内を満たす。


「うわ!」


つい声をあげてしまうと、白煙の中からひょこっと顔が現れた。


「ごめんごめん、昨日からスモークが止まらなくてね」



黒縁眼鏡をかけた彼はそう言うと、手招きをした。

「とりあえず、中に入って」


招かれるがままに、白煙の中に飛び込む。


ホワイトアウトという名前は知っていたが、初めて体験すると、恐怖でしかない。



視界が全て白色だ。



つま先を何か柔らかい物体にぶつけて、見下ろすが、つま先おろか、手の平すら見えない。



「これ、どうするんですか?」



前方にいるであろう、彼に呼びかける。


「どうすれば、いいと思う?」

質問を質問で返された。


姿は見えないが、彼の困った顔が目に浮かぶ。



「どういう状況なんですか?」


「歓迎会で新人を怖がらせたいからって言うから、貸したけど、返して貰った時に煙を止めるのを忘れた!」


それで、一晩中もくもくと部屋に白煙を充満させ続けていたということか。



「多分、床に煙を出す箱が転がっているはずだから、探してくれ!」


「どんな箱ですか?」


真っ白な前方に呼びかけると、おそらく床を這い、必死に探しているのだろう、だいぶ低い位置から声が返ってきた。



「白くてちっこいやつ」




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