第29話 不安

「捻るのよ!!」


大賀補佐が大声で言うと、「そうだった」と彼はつぶやき、氷のような機械を両手で捻った。


パキパキと音が鳴りながら、正方形の上部と下部が捻れるとともに、煙が吹き出るのが止まった。


「まったく」


そう呟きながら、大賀補佐はぶんぶんと扇子をなおも振ると、煙はみるみると消えていく。



「課長!また家に帰らないで、ここで寝てたんですか!」



見ると、先程つま先をぶつけた物体は、横たわった課長だった。


「もう朝か」


課長は頭をバリバリとかきながら立ち上がり、大きくあくびをした。



「飲み会の日は会社に泊まるクセは辞めてください」


「終電を逃したから、仕方なく」


「電車通勤が嫌で、徒歩圏内のマンションに引っ越したのをお忘れですか?」



大賀補佐にたしなめられると、課長はまた頭を掻いた。



「確かに」



課長はヨレヨレのシャツの裾をズボンにしまい、目をパチパチさせながら周囲を見渡す。


「よし、ルーキー達は来てるな。マッスー主任はまだか?」


「通勤中に困ってるおばあちゃんを見つけたので、午前休を申請したいと連絡がありました」


「そうか、まあいいだろう」


課長は机の上に置かれた、マグカップからコーヒーを飲んだ。いついれたかもわからないコーヒーだ。


少なくとも今日以前に入れたものだろう。



「人数は少ないけど、これが魔術防災対策課だ。よろしく」



私は不安でしかなかった。



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