第12話

樹の部屋に入るのは小学生以来だ。

小学生の頃はよく入って遊んでいたが、中学に入ってからは家ではなく外で遊ぶことが増えて、ここに入ることもなくなった。

シールがたくさん貼ってあるベッド、落書きだらけの机、傷だらけの床。

見た目はほとんど昔と変わってないな。


ん?

机の隅にピンク色のスマホが置いてある。

あいつこんな趣味してたか?

なんとなく電源を入れてみる。

意外なことにロックはかかっていなかったので、少し悪いと思いながらもいろいろいじってみた。

ラインのアプリを起動すると、このスマホが樹のものではないことが分かった。

なんだ、お姉さんのか。

・・・何か手がかりがあるかもしれない。

一番上のトークルームを見てみる。

そこには住所が書いてあるメッセージが来ていた。

すぐ近くだ。

他にも誰かの名前や電話番号が来ている。

なんだこれ。

その意味は次のトークルームを見て分かった。


「殺してやる」


いたずらか?

しかし、その上には明らかにストーカーからだと思われる内容のメッセージが大量に来ている。

そして、このメッセージを最後にラインは途絶えている。

最後のメッセージは8日前に来ていた。

このスマホが樹の部屋に置いてあることからして、どう考えても樹のお姉さんに何かあったことは間違いない。

・・・もしかして樹はこのストーカーを捜しているのか?

そうか、さっきの住所や名前はこのストーカーのものだ。

てことは今樹はこいつの家に行ってるってことか!

急いで樹の部屋を出た。

玄関のほうへ向かう途中で、お茶を持った樹のお母さんと鉢合わせになる。


「え?もう帰るの?」

「すみません。急用を思い出して・・・」

「そう・・・残念だわ。樹ね、最近元気ないみたいだったから。」

「何かあったんですか?」

「・・・・・実はね。最近、うちの長女が亡くなって・・・」

「え!?・・・」そうだったのか・・・

「あ、ごめんね。気にしなくていいから。」

「あ、はい。お邪魔しました。」

「気を付けてね。」


俺はその後すぐに書いてあった住所に向かった。

しかし、まだ樹は来ていなかった。

時計はもう午後の9時を指している。

樹を捜そう。

俺は再び自転車を漕ぎだした。









ピロロロロロロロロ


んあ?

いつの間にか眠っていたらしい。

電話の受話器を取る。


「はい。」

「お時間10分前になります。」

「わかりました。」


もう11時か・・・

部屋を出て、精算を済ませ外に出る。

4月になっても夜はまだまだ寒く、薄着で来たことを後悔する。

俺は自転車を漕ぎ始めた。


あいつの家は俺の家から500メートルほどしか離れていなかった。

考えてみれば当然だ。

妄想空間をつなげるには、お互いの距離はある程度近くないといけない。

あいつは自分の家から姉貴をストーカーしていたんだ。

俺がもっと早く空間に入れるようになってたら、助けられたのかもしれないのにな・・・


考え事をしているうちに、いつの間にか到着していた。

今日は昨日のように補導されるわけにはいかないので、近くの路地裏に隠れることにした。

目を閉じて、姉貴のことを考える。







目を開けると、そこはファミレスだった。

後ろで笑い声が聞こえて振り向くと、あいつと姉貴が談笑しているではないか。

その姿が許せず、俺は後ろから掴みかかっていた。


「お前、自分のしたことが分かっているのか!!?」

「な、なに?お前は確か・・・」

「お前が殺したやつの弟だよ。」

「ち、違うんだよ!あれはただの冗談だったんだ。殺すつもりなんて


バキィ!


本気で顔面を殴った。

「お前がどう思ってたなんて関係あるか!お前が殺したんだ!!」

「違う!俺じゃない!俺はただ好きなだけだったんだよ!でもあいつが俺のことを

「お、お前、自分が悪いと思わないのか?」

「俺のせいじゃないんだ!本当に死ぬなんて思わなかったんだよ・・・」

こんな奴に姉貴は・・・

「殺してやる。」


俺が拳を振り上げたその時、いきなり体中に激痛が走った。

思わず膝をつく。

なんだ?

体が動かない。

吐き気がしてきた。

頭痛がする。

寒気もしてきた。

全ての不快な感覚が俺の全身を駆け巡る。

こいつの仕業なのか。


「・・・・・お前・・・なにした・・・」

「お前のせいだからな。お前がいきなり殴ったりするからだ。」


くそ・・・

意識が遠退く。

苦しい。

息ができない。


死ぬ・・・

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