第11話

朝起きて、昨日の夢のことを冷静に考えてみた。

よく考えたら夢で樹が死にそうって言われたぐらいで電話するのはおかしかったな。

妙に現実味のある夢だったけど、どう考えても夢だしな。

しかも樹でなかったし。

もっかい電話しとこう。

俺は樹に電話した。

しばらくしてから、樹はでた。


「おう。俺だけど。」

「だ、大樹。」向こうはなぜか少し焦っているようだ。

「なに?」

「お前、なんか知ってんのか?俺のこと・・・」

「え?いや別に何にも知らないけど。」

「そうだよな。あ、昨日の電話なんだったんだ?」

「ああ、あれは変な夢見てちょっと寝ぼけてたみたい。なんかお前が死ぬかもってお前の妹が言ってた。」

「へぇ・・・。なんか他には何か言ってた?」

「あと、お前のお姉さんがとられたとかな

「え?!」

「え?」

「いや、なんでもない。じゃ、じゃあな。」


いきなり切られた。

なんだ今の反応。

まさか本当にお姉さんに何かあったのか?

となるとあれは正夢?

いや、そんなことより樹が死ぬかもってのも本当なのか?

死ぬってなんで?

そういえば、樹が妄想空間で殺人があったとか言ってたよな・・・

まさか・・・

とりあえず、もう一度電話しよう。


しかし、それから樹が電話に出ることはなかった。

さっきの反応といい、電話に出ないことといい、なんだか気になる。

どうする・・・

とりあえず、俺は樹の家に行ってみることにした。


樹の家はおれの家からわりと近くて、歩いて5分で着く距離にある。

しかし、今日は急いで自転車で向かった。

なのに樹の家には誰もいなかった。

ということは、家を出たばかりでまだ近くにいるか、おれが電話した時には既に家を出ていたかだ。

この場合、どうする?

・・・いや、迷っている間にも離れてしまうかもしれない。

俺は樹が近くにいることに賭けて、再発進した。


もし近くであいつが妄想空間をつくったなら、俺は入ることができるはずだ。

でも、あいつはどこにいる?

・・・あー、だめだ。

情報が少なすぎる。

とにかく今は樹を探すことに専念しよう。







妹のひかりの予想は昔から本当によく当たって、何度も驚かされた。

テレビでたまたま競馬が映っていた時に、突然「あの馬が勝つ」と言い出したことがあった。

どう考えても勝てそうな馬じゃなかったのに、終盤に大逆転して一位になってしまった。

競馬ならたまたまで済むが、姉貴のことを、しかも人の夢に現れて言い当てるなんて、あいつは大天使かなんかか?


俺は今、近所のカラオケにいる。

ここなら誰も来ないし、見つかりようがない。

大樹は俺を探しているかもしれないが、俺は明日にならないと家に帰らない。

あいつが家に帰ってくるのは午後の11時以降だから、それまであと5時間ぐらいここで待つだけだ。

何か歌ってもいいが、そんな気になれない。


じっとしていると姉貴のことを考えてしまう。

それが辛くて、かわりに妹のことを考えていた。

妹と外で普通に遊ぶ夢。

なぜこんなことを考えるのかというと、妹は生まれつきの病気で、ほとんど病院から出たことがないのだ。

ほぼ毎日病院に顔を出しているが、一緒に外で遊んだりはできない。

しかし、前かくれんぼをしていた時にいきなり大樹が空間に入ってきたのは本当に驚いた。

でも、少し安心もしていた。

あいつが妄想空間に入れるかはほとんど賭けだったし、入れなかったら普通に話して帰るつもりだったからだ。

それにしてもあいつ、中学の頃と何も変わってなかったな・・・






全然見つからん。

あれから2時間以上探したが、樹はどこにもいなかった。

電話もしたが、一切出ない。

どうしよう・・・

今日はもう引き上げるか?

いや、最後にもう一度だけ樹の家に行ってみよう。

俺はUターンした。

しかしそこには元来た道はなくて、かわりに片桐がいた。


「え?」

「は?」

「なんでまたお前が・・・」

「それはこっちのセリフなんだけど。」

「ていうか、今それどころじゃないんだよ!」

「そんなこと知らないわよ!」

「とにかく、早くこの空間を解いてくれよ。」

「そんなこと言われてもいきなりできるわけないでしょ!?」

「俺、早く樹の家に行かなくちゃいけないんだ。」

「樹って木村君?」

「そう。はやく!」

「そんなに急いでも、ここにいたら同じよ。」

「え?あ、そうか、時間がゆっくり流れてるんだっけ。」

「そう。」


・・・

これ以上話すことがなく、重い沈黙が流れる。


「・・・なんでそんなに急いでるわけ?」口火を切って、片桐が話し始めた。

「なんか、樹が危ないらしい。」

「どういうこと?」

「俺もよくわからないけど妄想空間で樹のお姉さんに何かあったらしくて、そのことで樹が何かに巻き込まれてるっぽい。」

「大分ざっくりした説明ね。で、そのこと誰から聞いたの?」

「え?いや・・・」

「・・・何?」

「まあ、その、夢のお告げっていうか・・・」

「はあ?」

「いや!あの、俺も夢だけだったら信じなかったんだけど、電話したらなんか本当っぽかったっていうか・・・」

「時間の無駄ね。」

「いや!なんか樹焦ってたし、前に妄想空間で殺人があったとか言ってたから、


しかし、片桐は呆れたように目を瞑りながら、空間を解散させてしまった。






樹の家に向かう途中、いろいろと考えていた。

あれはただの夢で、樹が電話を切ったのもただの偶然だったってことも十分あり得る。

いや、多分そうだよな、普通の人ならそう考える。

我ながら恥ずかしい。

妄想しすぎておかしくなってしまったのか俺は?

はあ・・・・・・。


「あら、あなた、大樹君じゃない?」

後ろを振り向くと、懐かしい顔があった。

樹の母親だ。

「あ、お久しぶりですー。」

「ホントにねー。何年振りだろー。中学校入学してからだから、5年ぶりかー元気してたー?」

「はい。あの、樹君いますか?」

「樹はねー、まだなんだけど、多分もうじき帰ってくるから、部屋で待っとく?」

「はい。」


は!

思わずはいって言ってしまった!

もう入るしかないけど、これで何もなかったら、俺ただのバカだな。

どうしよう・・・

俺は後悔しながらも、樹の部屋に入る羽目になった。

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