4-7
「……一志くん、弥絵ちゃんには甘いよ、点数……」
ちょっとずるいと思う。
「甘くないっ」
「甘いよっ」
宣子は半泣きで訴えた。
「シスコン……」
「は?」
聞こえなかったのか、それとも言葉の意味を知らないのか、一志は宣子の台詞に眉をひそめた。
「もういい。怪我人は寝てろ」
一志は大きく煙を吐いてから煙草を揉み消した。
宣子の両肩を掴むと、布団の上にぐいと押し倒す。宣子の頭は強引に、枕に押しつけられた。
天井を背負った一志の顔が真上にあった。口をへの字に曲げて宣子を見下ろしている。
ああ、と宣子は嘆息した。
「わたしもお兄ちゃん欲しいよ……」
あの男と血が繋がっていない兄が欲しい。無条件で彼女を肯定し、守ってくれるひとが欲しい。
「わがまま言ってんじゃねえ」
片手が伸びてきて、右の頬をぎゅうと抓られた。目の縁に留まっていた涙が、掴まれた衝撃で溢れ落ちた。
「俺で我慢しろ」
頬から手を離し、相変わらず怒ったような顔で一志は言った。
宣子は自分の耳を疑った。あまりにも意外な言葉を聞いた気がした。
「……一志くんは、わたしのこと嫌いなんだと思ってた」
「べつに嫌いじゃない。ばかだとは思うけど」
「うう……」
理想のお兄ちゃんは、こんなこと言わないはずだ。
頬を伝う涙は、落ち着かない気分になるほど温かかった。
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