4-6

 「あいつ、気が狂ってるの」

 「……だからって、べつに」

 「わたしもきっとそうなの」

 「やめろよ」

 一志はかぶりを振った。

 「やめろ。ぞっとする」

 宣子は構わず言いつのる。

 「迷惑ばっかりかけて、ごめん。ごめんなさい」

 「……ふざけんな」

 ふざけてなどいない。

 首を横に振ってうつむくと、涙が落ちた。しばらくの沈黙があり、ぽつりと一志が言った。

 「なんて顔してんの?」

 いま宣子をとらえているのは深い孤独だった。寄る辺なき身であるかのような頼りない表情だろうか、と、ぼんやり考える。

 「むかつく」

 吐き捨てるような台詞に心が傷つけられた。

 「自分だけが寂しいとでも思ってんのか」

 宣子は驚いて瞳を見開いた。

 全てを言い当てられたような気がした。

 「弥絵もそういう顔してた。母さんが死んだとき」

 「……え……?」

 「俺がここに居るのに。あのときは親父だって居たのに、自分だけが不幸みたいな顔しやがって」

 彼は苛立たしげに、煙草の箱に手をのばした。

 「まあ、弥絵は子供だったから仕方ないだろ。七つだったからな」

 一本取って、火をつける。

 「あんた幾つだよ?」

 吐き出された煙が顔にかかった。

 「……はたち」

 素直に答えて、情けなくなった。

 ……わたし、お説教されてるのかしら。それも十七歳の少年に。

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