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翌日の昼間。家主が出払った上条家の風呂で、宣子はのぼせていた。
左腕には包帯が巻いてあるため、濡らさないようにずっと腕を上げていた。
その腕が数分前から、浴槽の外にだらりと垂れ下がっている。左腕に巻きつけた包帯にはうっすらと血が滲んでいた。
頭がうまく回らない。身体を洗ってから湯舟につかり、どのくらい経ったのだろう。判らない。
「……おい、居るのか?」
擦りガラスのサッシの向こうから、一志の声が聞こえた。もう仕事から帰ってきたのだろうか。
「……たすけて」
咄嗟に口に出た。喉がからからに乾いて、掠れ声しか出なかった。
しばらく躊躇うような間があり、声がかけられる。
「開けるぞ」
——十五分かけて、宣子は救出された。
「ごめん……溺れるところだった」
「いいから、もっと水を飲めっての!」
有無を言わせぬ口調で命じられ、宣子はコップの水をちびちびと飲み下した。
真っ赤な顔をした彼女は、客間に敷いた布団の上にぐったりと座っていた。
一志はどこからか持ってきた季節外れの団扇で宣子を扇いでいる。
「怪我してるのに風呂なんか入るなよ。血行良くしちゃまずいだろうが……」
一志の顔もどことなく赤かった。
ひとさまの家で、よりによって裸で倒れるなんて、申し訳ないことをした。宣子は猛省した。
しかし悪夢に急き立てられたのだ。風呂に入ったのは、絶対に必要なことだったはずだ。
「だって。汚れ……落とさなきゃ……」
安静のため、宣子は一日仕事を休んだ。ひとりきりであの家へ戻ることは躊躇われ、また上条兄妹も引き止めてくれたため、夜までふたりの帰りを待つことにした。
一志は仕事に出かけ、弥絵は学校に出かけていった。
宣子は、することもないので微睡み、悪夢を見た。あの男の夢だった。
冷たい汗をかき、彼女は飛び起きた。風呂に入り身体を洗わずにはいられなかった。
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