4-1
新年が明けた。
彼女の前に、悪魔が現れた。
悪魔は父親の顔をしていた。
後に思い出してみれば、いささか無防備に過ぎた。
この村に彼女の敵は存在せず、その事実に長く慣れ過ぎたのかもしれなかった。
ノックの音がして、宣子は玄関先へ向かった。上条兄妹と夕食を共にする約束をしていたのだ。時間がすこし早いことにも気づかなかった。
彼女は容易く扉を開けた。
扉の向こうには、二度と顔を見ないと、そう決めた相手が立っていた。
宣子は呆然と立ち尽くした。
父親の顔をした男はにやにやと笑っていた。
「久し振りだな」
口は干涸び、言葉が出てこない。現実感がまるで持てない。
「まったく、連絡のひとつも寄越さないで」
男は言い、当然のことのように彼女の家へ上がり込もうとした。安全地帯を侵されそうになって、宣子はようやく我に還る。渾身の力を振り絞って叫んだ。
「やめて、出てって! 勝手に入らないで!」
勝手に靴を脱ぎ、家の中に一歩足を踏み入れた男は、胡乱に宣子を見返した。
「わざわざ、こんな田舎まで会いにきてやったんだぞ? その態度はなんだ!」
怒鳴られて身が竦んだ。けれど決して退けない。
「会いたくなんかなかった。いますぐ、帰ってよ」
「そんな訳にもいかないだろ。もうバスもなくなったし」
日は暮れて、確かに交通手段はなくなっている。車で送り返すには他人の手を煩わせなければならない。
宣子は唇を噛みしめた。
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