2-8
診療所のドアが開いた。寒そうに身を竦めた一志が入ってきた。
「どうも……」
「あ、噂をすれば」
弥絵はさっそく、マフラーを誇らし気に見せびらかした。
「宣ちゃんにもらっちゃった!」
「ふうん。よかったな」
一志は弥絵の隣に腰掛けると、マフラーを眺めた。
「なにこれ」
白いボンボンを引っぱって握る。感触が気持ちいいのか、繰り返し触り続けた。
「この白いやつ、可愛いよね」
「そうか?」
柔らかくて面白いけど、と一志はつぶやいた。
「宣ちゃんが、お兄ちゃんにも編んでくれるって」
「え、これ手編み?」
「そうだよ!」
弥絵が胸を張る。
「すごいでしょ」
「おまえが編んだのかよ」
そんな会話を背後に、宣子は紅茶を淹れに台所へ立った。
ふたりが揃っているところを見るのは面白い。一志の珍しい表情を観察するのがちいさな愉しみになっていた。誰に対しても素っ気ない一志は、妹の前でだけとても優しい顔をする。本人は気づいていないのかもしれないが。
ケトルを火にかけて湯が沸くのを待っていると、戸口に一志が立っていた。
「ありがと」
「なに?」
「弥絵のマフラー」
「ああ……」
大層にありがたがられることでもないと思った。
弥絵にあげたのだから、兄から礼を言われる筋合いはない。過保護な感じが、なぜかわけもなく気に障った。
「一志くんにも編もうか」
「いや、いい」
「お揃いのボンボン、つけてあげるよ」
冗談のつもりで言った。
ケトルが音を立てた。
「それは、恥ずかしいからいい……」
火を止めようと後ろを向いたので、一志の表情を見逃してしまった。
振り返ったときには、彼はもう部屋へ戻っていた。
どんな顔で恥ずかしいって言ったんだろう。
「……
全員でお揃いの可愛いマフラーを巻けばいい。
その姿を想像して、宣子はくすくすと笑った。
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