2-1

 次の日からさっそく、選花場での仕事がはじまった。

 集落の中心にある作業場に、彼女を含め三十人ほどの男女が集まる。周囲の温室や外庭で育てられた花を選別し、出荷作業をするのだ。

 仕事は単純なものだったからすぐに慣れた。作業は楽でもなければ苦でもなかった。花を見ていても心が和むこともない。花は花、ただそれだけのものだった。

 それでも嫌々やっていた前の仕事より、ずっと上等だった。男に愛想笑いをして酒を注ぐ仕事なんて、辞められて心底嬉しい。

 花の名前などほとんど知らなかったが、数十種類の花卉を取り扱ううちに次第に覚えていった。

 仕事を始めてまもなく、ひときわ目を惹く、珍しい薔薇を見た。

 禍々しいまでの深紅と、堂々とした肢体。裕福な層が好む高級花らしく、この村でいちばん稼ぐのがこの薔薇なのだそうだ。

 「それが『ペイン』だよ。隣の温室で育ててるのと、野生のとがあるの。ちょっと大きさが違う」

 ぽっちゃりした体型の、主婦の多田が教えてくれた。

 宣子は切り花を手に取り、眺めてみた。

 ペイン?

 「……変な名前ですね」

 痛みという意味だ。見目麗しい深紅の花に、そんな名前がつけられていることに違和感を覚える。

 多田は、そう?と首をかしげた。

 「この村にしか咲かない薔薇。だから高価なのよ」

 「この村でしか……?」

 そんな花があるなんて。

 不思議な話だ。しかしそういえば、篠沢もそんなことを言っていたような気がする。

 特別な薔薇があるから、この村はやっていけるのだと。

 ペイン。

 その名にどことなく不吉なものを感じたが、すぐに忘れてしまった。

 毎日は単調で、だからこそ平和に過ぎていった。

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