1-4

 「ありがとうございました」

 縁側で休憩しているふたりに、緑茶をふるまう。

 「お互いさまだからね」

 長浜は人の好さそうな笑顔で言い、宣子の顔をまじまじと見た後で訊ねた。

 「宣子さん、幾つなの?」

 「十九です」

 「おお、十代かあ……」

 驚いたような口調に、宣子は首を傾げた。

 「篠沢さんからは、聞いていませんか」

 仕事や家に関する手続きなどは、全て世話役の長浜に任せていると篠沢は言った。ある程度の情報は伝わっているものだと思っていた。

 「いや、年齢までは聞いてないよ。若い女の子ってだけで。こんなに若いとは思わなかったけど」

 長浜は美味しそうにお茶をすすった。隣の一志は湯飲みを持ったまま、庭の木をただ眺めている。

 「あのさ、宣子さんは篠沢さんの……」

 意味ありげな視線を受けて、宣子は慌てた。

 「違いますよ?」

 長浜が苦笑した。

 「だよな。十代じゃ、いくらなんでも……いや、ごめんごめん。社長、三十を越えてもまだ結婚してないもんだから……」

 「あのひと、社長さんなんですか」

 地位がある人間だとは思っていたけれど、詳しい素性は聞いていなかった。勤めていた酒場でよく見かける半常連の男だったとはいえ、言われるままについてきた自分は相当参っているのかもしれない。宣子は内心で自嘲した。

 「うん、この村の花卉産業を大きくしたのはあの人だからね。村長の息子さんだよ」

 傲慢な態度が滲み出ていたのはそのせいか、と思った。あんな男と関係があると思われるのは、誤解でもあまり嬉しくない。

 ふたりはしばらく雑談を交わし、また選花場の仕事についても打ち合わせた。歩きで四十分ほどの距離に、花を仕分けて出荷する作業場がある。宣子はそこで働くことになっていた。

 「車はないんだよね?」

 「はい。歩きでなんとかなるでしょうか?」

 「ちょっと遠いね。自転車くらいは買ったほうがいいかもな……」

 「そうですか。考えておきます」

 話が一段落した頃に、それまでずっと黙っていた一志が言った。

 「これ、持って帰っていい?」

 手のひらに、お茶請けに出したビスケットの小袋を乗せている。

 「どうぞ?」

 「どうも」

 シャツの胸ポケットにそれを仕舞うと、彼は立ち上がった。長浜が応じるように腰を上げた。

 「じゃ、なにか困ったことがあったら、遠慮せず俺んとこ連絡してな。ここじゃ助け合わないと、なにもできないから。あと、この一志は家が隣。二十分くらい歩くけど」

 「はい。判りました。……お世話になります」

 宣子は深々と頭を下げた。

 ふたりの乗り込んだワゴン車は、ゆっくりと森の中に消えた。

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