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 彼らはまず、前の住人が残した家具を運び出した。年代物の箪笥、使い物にならない壊れた食器棚、薄汚れた仏壇までもが運び出された。

 宣子は小さめのがらくたを箱に詰めていった。割れた食器や古い置き物など、生活臭が漂う雑貨を無表情に整理してゆく。まとめて全部捨ててもらおう。

 篠沢が言うには前の住人はここで亡くなったらしい。古くなった家具を引き取る者もおらず、長い間ここに放置されていたのだという。

 彼はあまり多くを語らなかったし、宣子も詳細を訊くことはしなかった。

 篠沢の言う仕事に従事すれば、家賃を納める必要もなく、ここを無償で貸し与えると言われている。

 さぞかし悪条件の仕事なのだろうと思ったが、内容を聞いて拍子抜けした。

 花の世話と出荷。この村の経済はそれだけで成り立っているというのだ。

 うますぎる話に一抹の不安を感じたものの、実際に集落の様子を目の当たりにした宣子は複雑な思いだった。この過疎ぶり、人手不足は本当の話なのかもしれない。地方都市で生まれ育った宣子には、こんなに深い森の中で人間が暮らせるのかどうか、うまく想像できないほどだった。

 宣子が無造作にがらくたを処分する間、男ふたりは不要なものをあらかた外へ出し終えた。

 続いて冷蔵庫など、女手ひとつでは運べない重い家具を運んでくれた。これは宣子がふもとの町の小さな電器店で購入したものだ。村のとばくちまでは業者が運び、そこからの道は長浜が軽トラックに乗せて運んだ。この村は森に囲まれているから、あまり大きな車では道幅を通れない。目印になるものが見つけにくいため、森の道は地元の人間しか精通していないという。

 その話を聞いたときにも、彼女は一抹の不安を覚えた。想像以上に桁外れの田舎なのかもしれないと——そして実際にその通りだった。

 不安と同時に、宣子は深く安堵していた。

 余所者は、簡単に村へ入ってこられないのだ。

 逃げだせるのなら行き先はどこでもよかったけれど、閉じられた集落というのは彼女に好都合だった。

 「これはどっち置くの」

 小さな箪笥を抱えた長浜が、声をかけてきた。適当な配置を伝えて、部屋の奥へ運んでもらう。

 新しい家具を入れ終え、だいたいの片付けが終わる頃には、日が暮れていた。

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