第22話 活気ある街中で

 アクエリアスに着いたティナ達は、まず現地で待機しているという二人の騎士を探すところから始めた。


 街は白色が基調となった石造りの建物が多く建ち並び、暖色と木組みが主な王都とはまた違った雰囲気を醸し出している。祭事ということもあり、大通りや噴水広場は王都に負けない活気を誇っているのだが、『人を隠すなら人の中』とはよく言ったものである。

 いくら場所を知らされているからといっても、たった二人の人間を探すというのは困難を極めていた。


「地図だとS《シエラ》区域までもうあと直線百メートルも無いんだけど......、しくじったな~、もっと特徴とか聞いておくべきだった......」


 ティナが手に持っているのは、この水上都市アクエリアスの大まかな道や建物が書かれた地図だ。その上からは区切るように線が引かれており、コロシアムが建つ街の右側は大きめの枠の中にAと書かれ、そこから西の市街地はB、C、Dと細かくブロック化されている。


 この枠は王国軍の展開場所を示すもので、コロシアムのあるA《アルファ》区域には一個中隊と一個小隊、その他街中には一個~三個小隊が配置されていた。


「立派な建物ばっか、さすが副首都と名高いアクエリアスだけあるよ。ところで今から合流する騎士って私達と同じ部隊なんだよね? 隊長は会ったことあるの?」


「......無い。っていうかどんな人達なのかもあまりわかんないんだけど、一つ聞いたところによると両者共かなり強いらしいわ。教導隊では実技においてトップ、模擬戦でも負け無しなんだって」


「そんな方達と同じ部隊だなんて、ちょっと緊張しますね......。すごく怖い人達だったらどうしましょう」


 顔を青くするフィリアを見てティナも少々不安になるが、問題はその部隊員とどう合流するかだった。

 ティナ達第三遊撃小隊の展開予定区域であるS(シエラ)には、やはりそれらしい騎士は見当たらない。いっそのこと大声で呼ぼうかとも思ったが、さすがにそれはマズイので一人一人探そうとした時だった。


「止めないでよルノ! あのバカ貴族相手に会話で解決しようと思ったのが間違いだったんだわ、今からキッチリ対話こぶしで止めて来るからこの手を放して!」


「ダメだよミーシャ! いくらあいつが理不尽の塊だとしても、貴族に喧嘩なんて売ったら命がいくつあっても足りないよ! お願いだから落ち着いて!」


 賑やかな人垣を突き破って喧々たる声が聞こえて来た。何かの喧嘩騒ぎかと思いティナ達が急いで駆けつけると、そこには二人の少女が立っていた。


 一人は背中まである亜麻色の髪を揺らし、凛とした雰囲気を纏った紅目の少女。だが、その顔はどこか怒りに満ちており、おそらく先程の声も彼女のものだろう。

 そして、もう一人の少女は海の様に青い髪をポニーテールに纏めたおとなし気な様相をしており、まあまあと何かに対して怒っている少女をなだめている。


「隊長、あの人達......私達と同じ制服じゃないですか? ほら、袖に国旗も付いてますし」


 ティナはここで合流する騎士を二名と聞いており、今目の前にいる軍服を着用した少女も二人。考えられる結果は一つだった。

 ゆっくり近付くと、ティナは思い切って話し掛けてみる。


「こんにちは、どうしたんです? なにか問題でもありましたか?」


 フィリア程流暢ではないにしろ、丁寧な敬語での呼びかけに、青髪の少女が応答した。


「あっ、すいません、ちょっと色々ありまして。あと、ここで合流する予定の小隊長と隊員を待ってたんですよ」


 ビンゴ。間違い無かった。こちらが大声で呼ぶ前に向こうから来るとは思っていなかったティナ達だが、念のため確認する。


「一応名前と所属を教えてくれる?」


 すると、余程気に食わない事があったのだろう。紅目の少女はまだ少しムスッとしながら、もう一人は特に声色を変えず口を開いた。


「王国東方方面軍、第一師団即応遊撃連隊、"第三遊撃小隊所属"、ミーシャ・センチュリオン。一等騎士よ」


「同じく、本日付けで"第三遊撃小隊"に配属された、ルノ・センティヴィアです。私も階級は一等騎士」

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