第19話 終わりと始まり
「いや~、最後の最後まで厳しい所でしたねここは」
「ホントだよ、まあ楽しかったっちゃ楽しかったけど」
デコを赤くしたセリカとクロエが、どこか遠くを見る目で王国各駐屯地行きの馬車群を見つめていた。
今日をもって騎士となった彼らは、これから王国内にある駐屯地のどこかへ部隊配属される事になっている。班員が運よくまとまる時もあるが、基本的には同期と離れ離れになるのが常であり、ひょっとすれば二度と会えない可能性もあるので皆ここで別れを告げたりするのだ。
「思えば色々ありましたね......、始めにお使いの途中で軍の募集看板を見てティナさんと出会ってから、ここまでは本当にあっという間でした」
「あっ、フィリアもお使いだったんだ。私もあの日お父さんが酔って買い物忘れちゃったから代わりに行ってたの。でもまあ......、結果的には良かったかな」
ティナとフィリアも、横で出会った当初からの思い出に浸っていた。
空は新たな道の門出を祝うかの様に晴れて上がっており、太陽が眩しく照らす中、まだ涼しさを伴ったそよ風が元のセミロングに伸びたティナの輝く金髪を優しく撫でた。
「ではまず『戦闘科』配属者を読み上げます。呼ばれた方は馬車に乗り込んで下さい」
眼鏡を付けた少しキレ目の女性騎士が、名前を呼ぶと共に配属先の駐屯地行きの馬車へ搭乗を促している。
「皆さんは『戦闘科』希望でしたよね? 私は『機甲科』なので後もう数ヶ月ここで後期の教育過程がありますが、三人はもう別々の駐屯地っすかね......?」
寂し気な表情でこちらを見るセリカに対し、クロエがらしくないと言わんばかりに彼女の背中を叩いた。
「せっかく入りたがってた『機甲科』に行けそうなんだからもっと喜びなって、私達には私達の、セリカにはセリカの仕事があるんだから、ここで別れちゃったとしてもまたいつかどこかで会えるよ!」
クロエの激励にセリカは目頭が熱くなるの抑えながら、「はいっ!」っとはじける様な笑顔で答えた。
『戦闘科』配属の騎士が次々と呼ばれ馬車に乗り込んで行く中、ティナ達も今か今かと身構えていたのだが、進行するにつれ少しずつ妙な違和感を感じ始めた。
ティナ達第一班の名前が先程から一向に出る気配がしないのだ。
まだ後期が残っている者はともかくとして、遂には戦闘科配属者の名前を全て読み終えてしまう始末だった。
その後も『砲兵科』『衛生科』『輸送科』『通信科』の騎士が馬車に消えていくが、ティナ達の名前が呼ばれることはとうとう無かった。
「これ、私達はどうすればいいんでしょうか......?」
「ひょっとして......、私達クビにさせられたんじゃ!?」
傍ではクロエとフィリアが汗を滝のように流しながら考えうる最悪のパターンを想像し、顔を真っ青にしていた。
それはティナも同様、物心付いて以来一番の不安感に苛まれていた。
その時だった。名前を読み上げていた女性騎士が唐突にティナ達の元へ歩いて来たのだ。
そしてそれは、彼女達が予想も希望もしていなかった部隊への配属を告げるものだった。
「ティナ・クロムウェル二等騎士、クロエ・フィアレス二等騎士、フィリア・クリスタルハート二等騎士ですね? あなた達は騎士スキル、魔法行使能力、固有スキルという要素の総合的な判断により、本日付けで王国軍第一師団即応騎士連隊隷下の『第三遊撃小隊』へと配属が決定されています。詳しい説明等は1300(ヒトサンマルマル)より駐屯地司令執務室にて行いますので、遅れず集合願います」
「えっ......!?」
まず間の抜けた声を出したのはセリカだった。
そしてその後すぐ。
「「「ええええええええええええええっ!?」」」
ティナ、クロエ、フィリアの三人は、揃って驚きのあまり駐屯地全体に聞こえる程の叫び声を上げた。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待って下さい! 私達『戦闘科』の騎士を志望したんですよ? それに遊撃小隊だなんて志望欄のどこにも......」
もはや動揺を隠す余裕すら無くなったティナが、言葉を詰まらせながら異議を唱えるが。
「もちろんこれもれっきとした『戦闘科』の騎士で構成されます。そして志望欄に乗っていないのも当然、これはつい最近創設が決定された部隊なのですから。詳しい説明は先程もお伝えした通りヒトサンマルマルに行われますので。では失礼します」
女性騎士はそれだけ伝えると、そそくさと元の場所へ戻ってしまい、残されたティナ達はただただその場で呆然としていた。
まだこれが現実であるかどうかも釈然とせず、目の前で走り去って行く馬車群を見つめながら幼い顔を引き攣らせていた。
「わっ、私達......これからどうなるんでしょうか?」
「まあ......なるようになるんじゃない? それより! 今日の昼食なんなんだろう、ここの駐屯地の食事はおいしいから実は離れたくなかったんだよねー。ある意味ラッキー」
相変わらずポジティブなクロエを見ていると、ティナもどことない安堵を覚え、少し笑いながら呟く。
「クロエの言う通りね。なるようにしかならないし、とりあえず1300(ヒトサンマルマル)前まで待ちましょっか」
『ストラスフィア王国軍第三遊撃小隊』。後にこの名は王国史に刻まれ、幾多の困難を退けた国の盾、そして剣として語られる事になるのだが、彼女達はそれをまだ知らない。
今日少女達は晴々した空の下、王国を守る蒼き騎士としての新たな道を進み始めた。
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