第4話 初友達
ーー場所を移し近くにあったレンガ作りの橋の上。三人は初対面ながら歳が同じという事もあり、すっかり打ち解けていた。
先程のひとり言に関しては、聞いてしまったならしょうがないという事で互いに開き直っていた。それどころか、さっきまで恥ずかしがっていたその話をネタに会話を盛り上げている状態に......。
「いやー、やっぱ生きるのにお金は必要だよねー。ティナとは仲良くやれそうだよー!」
一応会ったばかりで名前を呼び捨てにするこの黒髪少女はクロエと言うらしく、家が貧乏で家族は母親一人らしい。
それでも、こうして初対面でありながらもガツガツと明るく接して来てくれるのは、同年代の子とあまり話をした事が無いティナにとってはありがたかった。
「うっ、うん! クロエちゃんとは仲良くなれそうだね......」
ティナが慣れない口調で答えると。
「そんなちゃん付けじゃなくてもクロエでいいよ。っていうかフィリア、お金には困ってないんでしょ? なんで王国軍に入りたいなんて思ったの?」
クロエが呼び捨てでいいと言うと同時に、フィリアという白髪を持つ少女に質問した。
「ええっと......私にはすごく立派な兄が居て、昔から何をしても結果を出し褒められるのはいつも兄なんです。そんな兄と自分をいつも比べてしまっていて......だから、王国軍に入って頑張ればきっと、もっと自分に自信を持てると思って」
若干自己嫌悪気味なフィリアに対し、クロエが励ます様に。
「へーっ、立派な理由じゃん! まあお兄さんの事はあんま知らないけど、フィリアにもお兄さんより良いところ絶対あるよ!」
「そっ、そうだよフィリアちゃん! 人間得意な事や不得意な事だってあるんだし!」
クロエに流されティナもフォローを試みたが、普段父親ぐらいとしかしゃべる機会の無い彼女は、テンパってつい棒読みになってしまった。
「ふふっ、ありがとう。ところで、ティナさんはどうして騎士になりたいって思ったのですか? 寮生活だけが目的では無いと思うのですが」
「ッ!?」
お金が欲しいという話は先程からずっとクロエがしているので特に抵抗は無いが、国を守る人間に憧れたとは何故か気恥ずかしくて話す気になれず。
「いっ、いや......実は、私のお父さんが昔騎士だったの、それに憧れて......」
とっさに父親を引き合いに出してしまった。本当は軍人時代の父親を知らないので、尊敬のしようも無いのだが。
「へー、ティナのお父さん昔騎士だったんだ! カッコイイー!」
それにクロエがおもいっきり反応した上に、傍ではフィリアまで興味深そうな表情をしていた。
「うっ、うん......やっぱり、王国軍ってこの国を守ってる人達なんだし、私もお父さんみたいになりたいって思って......」
「ティナはすごいなー、私はただ生活費が欲しいだけだからさ」
「私もその考え、見習った方が良いのでしょうか」
二人にそう言われてしまうと、急に恥ずかしくなりティナは思わず首を振る。
「入る理由は人それぞれだと思うし、二人の持ってる理由だって、立派な動機だよ!」
この二人を見ていると、自分はもう少し素直になるべきだとティナは痛感した。
「所でさティナ、さっきから気になってたんだけどその買い物バッグはなに? 材料とかが入ってるけど、もしかして買い物の途中だったんじゃないの?」
「へっ?」
ティナがマヌケな声を出すと同時に、頭の奥からは溢れ出す様に記憶が蘇って来る。自分が父親にトイレ掃除を任せ、朝ご飯を買いに行ったという古い古い記憶が......。
「いっ、今...何時?」
震えた声で忘れきっていた時間を聞いてみる。
「......もう十一時前です」
「うわあああああああああああああああ!!!」
全てを思い出したティナは、買い物バッグ片手に断末魔の様な叫び声を上げて、家へと向かいひた走った。
「えっ!? ちょっとティナー!」
クロエが制止の声を上げるが、昼が差し迫ったティナにそんな余裕は無かった。
「ゴメン! また後で必ず戻るからー!!」
それだけを告げると、振り向きもせず走り去ってしまった。
「行っちゃいましたね......」
ティナが家に帰ってしまい、橋の上にはクロエとフィリアの二人だけが取り残された。
「あははっ、ティナはおっちょこちょいだなー。どうする? 昼過ぎくらいにまた来よっか?」
「そっ、そうですね」
走り去る友人の後ろ姿を見送り、二人も一度家に帰るべく帰路に着いた。
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