#1 そりゃ無茶だぜ王様!

「エース! 起きな、エース! 大変だよ!」

「……もう少し寝かしてくれよ、オカン」

「いいから起きなってんだよこのバカ息子! あんた、王様から呼ばれてるってさ。今、使いの人が来てるから、はやく行ってきな!」

 布団から飛び起きる。

 なんだって? 王様?

 オカンはにやっと笑っている。

「ようやくあんたにもお役目が回ってきたんだねぇ。頑張ってきなよ、新勇者さま!」

 なんてことだ。ついにこの日が来てしまったというのか。

 なぜ、ただの町人で、宿屋のせがれのオレに白羽の矢が立ってしまったのだ。

 ただの町人Aエースは目の前が真っ暗になった!


「準備できましたか。それでは行きましょう」

 鎧を着た兵士の表情はわからなかった。エースはとぼとぼとその後ろをついて歩いていく。

 宿屋から城までは歩いて3分程度。あっという間に到着してしまう。何とか断ることはできないだろうか。しかし、それを考える時間はなかった。

 城門が重々しく開かれる。兵士は一度もこちらを振り返ることなく、

ずんずん進んでいく。そう、彼は彼の役割を果たしているだけに過ぎないのだ。


 階段を昇り、王の間まではすぐだった。兵士は扉を開く。部屋に足を踏み入れると、王様の近衛兵たちが並んでいるのが見えた。

「中央までお進みください」

 兵士は扉の横で止まった。エースは仕方なく、中央まで進む。そこでようやく王様の姿が見えた。


「よくぞ来た、エースよ! 新たなる――勇者よ!」


 王様はとてもやつれ、かなり白髪は増えていたが、その声は力強く、とてもよく広場に響き渡っていた。

 選りすぐりの兵士たちは敗れ、さらには頼みの綱“勇者”の血を引く青年も帰らない。かつてない人材不足に見舞われた王国。そこで王様がとった苦肉の策が、これである。

 なんと町の若者を“勇者”に任命し、資金を与え、魔王を倒すという大義名分のため、無理やり旅立たせるという極めて単純な施策である。旅の中で若者が成長し、やがて魔王を倒す真の勇者に成長して欲しいというものだが、未だそれは成就していない。

 人材不足に加え、財政難にも見舞われているようで、最近では旅の支度金も減少しているという。

「勇者エースよ。これよりそなたには数々の試練が待ち受けていると思う。しかし! お主なら必ずや苦難を乗り越え、魔王を倒せると信じておる!」

「は、はぁ」

 いや、無理だろ。なんたってこの男エースは、剣を持ったことのないただの町人。運動不足で太ってきているし、せいぜい最弱のモンスター、スライム的なやつといい勝負だ。レベルで表示するのであれば1である。


「それでは旅の支度金500Gと、ひのきのぼう、そしてたびびとのふくを支給する」

 近衛兵の一人が、エースの前に宝箱のようなものを持ってきた。

 500Gはエースにとってそこそこの大金であったが、これでできることなどたかがしれている。ひのきのぼうとたびびとのふくは、いわば最弱装備。あってないようなものだ。ひのきの棒で倒せるのはそれこそスライムか、小さな子供くらいなものだろう。箱の絶望的な軽さに、エースはげんなりした。


「それと……我が近衛兵の一人が、どうしてもお主についていきたいと申してきておる。レインよ、前へ」

「はっ!」

「げ」

 エースは思わず声に出してしまった。

 箱を持ってきた近衛兵が、前に進み、王の前で跪いた。


「本当によいのだな、レインよ」

「はっ! 必ずや勇者エースと共に魔王を倒してみせます」

「うむ。頼もしい。期待しておるぞ! それではエースとレインよ、旅立つがよい!」

「はっ!」

 レインは箱を片手でひょいっと持ち上げ、片手でエースをずるずると引きずって王の間を出た。


 これは……とんでもないことになった。

 エースは大きく大きくため息をついた。


 さてはて、これからどうなることやら。

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マネジメント★勇者 ―もし町人Aがドラッカーの「マネジメント」とかを読んだら るーいん @naruki1981

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