マネジメント★勇者 ―もし町人Aがドラッカーの「マネジメント」とかを読んだら

るーいん

#0 プロローグ

「ようこそ! 始まりの町エアリーズへ!」


 町を訪れる冒険者に、そう言って声をかけるのが役割みたいなものだった。

 あとはせいぜい、父親の仕事――宿屋の手伝いをするくらいで、のんびりと暮らしていた。

 しかしここ最近ではかなり状況が変わってきていた。冒険者が減少しているのだ。魔王率いる魔物たちは勢いづき、その被害が各地で報告されるようになった。

「50年前はこんなことなかったのにのぅ。最近の若い冒険者ときたら、根性がないからダメなんじゃ!」

 祖父がぶつぶつ言う。

 50年に1度。魔王はよみがえる。正確には”継承”され、新たなる魔王が生まれる。その度、冒険者たちが生み出される魔物たちを倒し、素材や金銀財宝を得て、新しい武器や防具、道具を買い、世界経済は成り立っていた。その循環が今、絶たれようとしていた。

 冒険者がいなければ、宿屋は儲からない。困ったことになったと父親は言う。

 この事態を重くみた『王様』は、住民から得た税金を使って強化してきた軍の中から選りすぐりの兵士たちを魔王討伐に投入することになった。結果は惨敗だった。一体何が起こっているのか。人々は理解できず、ただ、魔王の脅威に怯えることだけしかできなかった。

 このまま誰も魔王を倒せなかったらどうなるのだろうか。世界は征服され、人間は彼らの奴隷になるのだろうか。根絶やしにされるのだろうか。わからなかった。

 ただ一つ言えることは、このままでは自分ののんびりとした生活も維持できるか危ういということだ。かといって何も行動する気にはなれなかった。


 ――その日が、訪れるまでは。

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