第5章 ダークレギオンふたたび
「
村長の家の奥まった一室で、林檎を剥きながらシャドウファングが言った。
「二度、発動する必要がない呪縛だったからだろう」寝台に横たわったダークレギオンは、ぼんやりと天井を眺めていた。「翼のない存在が、あの高さから落とされたら普通は死んでいる」
闇魔道士は、怒りと後悔とで居ても立ってもいられない気持ちだった。ダークレギオンにしてみれば、自分が
もちろん、自分が助かったことに気がついたダークレギオンは、すぐにでも邪竜人のところへリザを取りかえしに行こうとした。だが、村長のカディムに引き留められたのだ。
「お気持ちはうれしいのですが」とカディムは言った。「ここでダークレギオンどのに何かあれば、すべての希望は失われてしまうのです。ひとまず体力が回復するのを待ってからになさっては……」
万全を期してほしいという村長の気持ちは、ダークレギオン主従にも理解できた。
ここクライス村で、彼らのほかに魔物に対抗できる者と云えば
そして、強力な呪物だと伝えられている“枯渇水晶”と、呪物の使い手になれる可能性があるリザの両方がマリグナントの手に落ちてしまった以上、少しでも早く行動を起こす必要がある。それゆえに、傭兵や魔道士を雇いに町まで行っている余裕もなかった。
まさに、ダークレギオンが「最後の砦」なのである。
だからこそ、村長は我が家の一室──と云っても、呪い師のベリスが薬草の調合などに使っている部屋らしく、壁際の棚には薬草や様々な道具が並んでいて、薬くさい空気が満ちあふれている──を提供して、ダークレギオンの回復に手を貸してくれているのだ。
「カディムは俺を恨んでないんだろうか」
身を起こして林檎をつまんだダークレギオンが、ぽつりと言った。
「村長には、『強い魔力を秘めた“枯渇水晶”をご主人さまが持っていることを邪竜人が察知して奪いに来たんだろう』と言ってあります」シャドウファングは応えた。「村長の家に呪物があることを知って奪いに来たら、お嬢さんを見かけたんで、ついでに連れて行ったんじゃないかって。魔物は、若い娘さんや幼い子どもを好みますから……」
無理のある言いわけだとは思ったが、ダークレギオンがマリグナントに呪縛されていたことを伏せると、そんな話をでっち上げるほかはなかったのだ。
村長をはじめとする村人たちは、シャドウファングの話を信じてくれた。今は、村中の者たちが、ダークレギオンが邪竜人を倒してくれることを信じて、それぞれの家に身を隠している。
「騙してるわけだな、カディムを……村の連中を……」
ダークレギオンは林檎を放りだし、頭を抱えた。
──こんなご主人さま、初めて見る……。
シャドウファングは、かけるべき言葉を見つけることもできず、黙って床に落ちた林檎を拾いあげた。
シャドウファングにも後悔があった。
ダークレギオンを追って、この家を出たとき、リザもついて来ようとしていたのだ。振り向いて確かめていれば、カディムやベリスのいる居間まで彼女を入らせていれば、さらわれることもなかっただろうと思う。
「こうしてはおれん」ダークレギオンは、するりと寝台から出た。「行くぞ、シャドウファング。リザを取りかえさなくては」
「待ってください、ご主人さま」シャドウファングは慌てて主人の袖を引いた。「お気持ちは解りますが、がむしゃらにマリグナントのところへ行っても駄目ですよ」
「だからと行ってここで林檎をかじっていても仕方ないだろうが!」
闇魔道士が言いかえしたとき、かりかりと鎧戸を引っかく音がした。
「来た!」
シャドウファングは窓辺に駆けより、閉めきっていた鎧戸を開け放った。夕暮れ時の寂しげな陽光と、夜の匂いを含んだ風が吹きこんでくる。
『くぅん……』
鼻を鳴らしながら、茶色い獣が窓から顔を覗かせた。
「何だ?」
ダークレギオンが眉をひそめ、まじまじと獣を見つめた。獣は、きょとんと首を傾げ、闇魔道士を見つめかえしている。
「ぼくの知り合いです」シャドウファングは言った。「邪竜人の様子を探りに行ってくれてたんですよ」
昨夜のシャドウファングの訪問のおかげで、たぬきの長老も邪竜人のことが気にかかってきたらしい。ラクスとパメラの兄妹をはじめとする若手のたぬきたちを、南の岩山の偵察に出してくれていたのである。
顔を出したのはパメラだった。
『ポムス、あいつ、なにか変なことを始めたわよ』
「変なことって?」
たぬきの姿を取っているパメラの言葉は、ダークレギオンには理解できない。なにやら会話らしきものを交わしているシャドウファングたちを不審そうに眺めている。
『あたしたちには、奴が何をしようとしているのか解らないの』パメラは首を左右に振った。『でも、おじいさまが──』
「長老まで
『邪竜人の奴が呪力を増せば、森にまで魔手を伸ばしてくるは必定』長老は髭を撫でながら言った。『それを、あの間抜けな闇魔道士どのが防いでくれると云うのなら、儂らとても協力を惜しむつもりはないんぢゃ』
──ぼくたちの言葉が、ご主人さまに解らなくて良かったよ。
シャドウファングは、窓から覗いているダークレギオンにちらりと視線を投げて思った。ダークレギオンのことだから、たぬきごときに「間抜けな闇魔道士」呼ばわりされていると知ったら、マリグナントと闘う前に森に放火しかねない。
「それで、長老。邪竜人は何を始めたんですか?」
シャドウファングは、あらためて尋ねた。
長老は、その質問には答えず、自分が問いを発した。
『村長の家に伝わっていた呪物──あれは“枯渇水晶”ぢゃな?』
「どうしてそれを?」シャドウファングは目を丸くした。「そのとおりです。村長の家系──クリスタル家の血を引く乙女にしか使えないけど、リザお嬢さんには魔力がないから、今は誰にも使うことができないって……」
『ポムス、おぬし、“枯渇水晶”というのが、どういった呪物か知っておるのか?』
「いいえ」長老の問いにシャドウファングは首を横に振った。「相手の呪力や魔力を吸い取る力を持っている、と村長がおっしゃったのは聞きましたけど……それ以上のことは何も知りません」
「おい」ダークレギオンがシャドウファングの肩をつつく。「何を言ってるんだ? この狸は。ずいぶん爺さんみたいだが、何かの役に立つのか?」
『誰が爺さんぢゃっ!』長老は気を悪くして、ぷいっと明後日の方向を向いた。『間抜けな闇魔道士の若僧に、爺さん呼ばわりされる覚えはない!』
『おじいさま、ダークレギオンさまに悪気はないのよ』
パメラが、たしなめる。
「ご主人さま、こちらは森のたぬきたちの長老です」シャドウファングがあらためて紹介した。「邪竜人について教えてくださったのも長老なんです」
「ふぅん……」さして感心した様子もなく、ダークレギオンは長老を見ている。「で、何を知らせてきたんだ?」
「マリグナントが、何か変なことを始めたそうです」
「それじゃ、こんなところで呑気に話をしてる場合じゃないだろう!」ダークレギオンはシャドウファングを睨みつけた。「奴が何をしようとしているのかは知らんが、さっさと止めさせなくては!」
『相手が何をするつもりかも判らんうちから突撃して、うまくいくと思っとるのか? この若僧は』
ダークレギオンに「?」という表情を向けられたシャドウファングは、長老の言葉を、つい丸ごと通訳してしまった。闇魔道士の眉がひくひくと震え、頬がひきつる。
『馬鹿ね、ポムス』パメラが、はぁっと溜息をついた。『もうちょっと超翻訳しなきゃ』
「あ、あの、ご主人さま」シャドウファングは、あわあわと弁解した。「あの、長老に悪気はないんです。ご主人さまから見たら、長老もただのたぬきに見えるかもしれないけど、長老はそれはもう長生きされてて、いろんなことを御存知なんです。だから──」
「ああ、解った解った」ダークレギオンは
シャドウファングが長老を見た。長老は『おほん』とひとつ咳払いをして話を始める。
『おまえさんたちは、“枯渇水晶”の本質を理解しとらんのぢゃないかな?』
「本質?」シャドウファングの通訳を受けて、ダークレギオンが首を傾げる。「相手の呪力や魔力を吸い取ること、じゃないのか?」
『それは“枯渇水晶”の一面に過ぎん』長老は言った。『“枯渇水晶”は、呪力や魔力を吸い取ることもできれば、放出することもできる、と云われておる。岩山におる邪竜人は“枯渇水晶”が今までに吸い取ってきた呪力や魔力を放出させ、自分のものにしようとしておるに違いない。村長の娘さんをさらっていったのが、その証拠ぢゃ』
「そうはおっしゃいますけど、長老」シャドウファングが疑問を呈した。「リザお嬢さんには魔力がないんですよ。いくらマリグナントが“枯渇水晶”をどうにかしようと思っても、無理なんじゃないですか?」
長老は『場合によるんぢゃ』と答えた。
『“枯渇水晶”を「吸い取る」方向に働かせるにはクリスタル家の乙女の魔力が必要かもしれん。吸い取る対象に“枯渇水晶”の力を向けたり、どれぐらいの力を吸い取るかを制御したりするには、魔力が必要ぢゃからの。しかし、“枯渇水晶”が溜めこんでおる呪力や魔力を放出させるのに制御は必要ない。クリスタル家の乙女の血が“枯渇水晶”に働きかけさえすれば──』
「乙女の血、だと!」
シャドウファングの通訳を聞くか聞かないかのうちに、ダークレギオンは行動に出ていた。ここがベリスの調合室なのをいいことに、棚に並んでいる薬草や簡単な呪物の類を手当たり次第に革袋に押しこみ、背中に負う。
シャドウファングも急いで窓から部屋に戻り、自分の仕度をした。じきに陽が落ちることを考えて、ランプや火縄、魚油の壷などを用意する。
「行くぞ、シャドウファング!」
身仕度もそこそこに、ダークレギオンが部屋を飛びだした。その後を追おうとしたシャドウファングを窓の外から長老が呼び止めた。
『ポムス、おぬしと主人とで邪竜人の気を引け。その間に、儂らが娘さんを助け出す』
「長老……」シャドウファングはぺこりと頭を下げた。「よろしくお願いします!」
『あの間抜けな闇魔道士に言ってやれ。“枯渇水晶”が一度その能力を発揮しだせば、その働きは簡単には止まらん』長老は丁寧に髭を撫でつけている。『おぬしの主人が、どれほど間抜けかは知らんが、“枯渇水晶”の働きの方向を変えてやることぐらいはできるぢゃろう』
「働きの方向を変える……?」
シャドウファングは目をぱちくりさせた。 マリグナントは“枯渇水晶”の力を放出させようとしている。ということは、逆の方向に働かせてやれば、“枯渇水晶”はマリグナントの呪力を吸い取ることになる。
シャドウファングの表情が、ぱっと明るくなった。
「解りました!」
シャドウファングはダークレギオンの後を追った。
闇魔道士は、村長の家の玄関で、ようやく起き出してきた呪い師と何やら立ち話をしていた。傍らでは村長が心配そうに話を聞いている。
「ご主人さま」
シャドウファングが声をかけると、ダークレギオンは「来たか」と手を挙げた。
「何度も言うようだが」闇魔道士はベリスとカディムに向かって話を続けた。「南の岩山には、俺とシャドウファングだけで行く。いま話したように、邪竜人は“枯渇水晶”を使って自分の呪力を強めようと画策している。“枯渇水晶”にどんな呪力や魔力が、どれほど溜めこまれているのか、まったく判らない以上、迂闊に近づかないほうがいいんだ」
「しかし、それでは、リザお嬢さんを助けられない」ベリスが異議を唱えた。「ダークレギオンどのが邪竜人と闘っているあいだに、お嬢さんに何かあったら──」
「あのぉ」シャドウファングは、おずおずと口をはさんだ。「お嬢さんのことは、ぼくに任せていただけませんか? 森の仲間たちが助けてくれる手筈をつけてきました」
「本当ですか!」
カディムが、ほっとした顔を見せた。ベリスも、それなら任せてもいいかという表情になる。
「あの爺さんが手伝ってくれるのか?」ダークレギオンが不安げな様子を見せた。「大丈夫なのか? ぎっくり腰で倒れたりしないか?」
「なに考えてんですか、ご主人さま」シャドウファングは頭を抱えた。「森のたぬきは、長老ひとりじゃありませんよ」
「あ、そうか」
闇魔道士は苦笑してうなずくと、村長の家を出た。すでに周囲は暗くなりはじめている。
「お気をつけて」
見送りに出たカディムが、手にしていたランプを渡して言った。
「俺たちが戻るまでは村の連中を家から出すな」ダークレギオンは念を押した。「俺たちがどんな目に遭っても、リザだけは必ず家に帰すから、信じて待っていてくれ」
「ダークレギオンどの……」
カディムとベリスは、言葉もなく、深々と頭を下げる。
ダークレギオンとシャドウファングは、わずかなランプの灯りを頼りに、南の岩山に向かった。二人が歩いていく道の両側に茂る雑木の間を、かさかさと何匹もの獣が抜けていく気配がする。
「あれは全部、おまえの親戚か?」
ダークレギオンが左右を見い見いしながら尋ねた。すでに、すっかり陽が落ちているうえに、雑木がかなり密に生えているため、音の主を見ることはできない。
「親戚って……まぁ、そうなんですけど」シャドウファングはうなずいた。「随分たくさん来てますね」
「あんなに大勢で押しかけて、マリグナントに気づかれるようなことはないか?」
「大丈夫だと思います」シャドウファングは胸を張って保証した。「ぼくらは、さして強い獣じゃありませんから、他の獣やワーに気づかれないよう、隠密に動くことになれてるんですよ」
「ぼくら……って、おまえは狸じゃないだろう?」
シャドウファングは全身の毛が逆立ったような気がした。
──しまった! ご主人さまは、ぼくのこと、ワーおおかみだって思ってるんだ!
ここで自分の正体が知られてしまっては、ダークレギオンの母・アンナや、自分の母・レイラの今までの努力が水の泡である。
「あ、いや、まぁ、そうなんですけど」シャドウファングは慌てて言いわけした。「このところ、ずっと彼らと一緒にいるもので、つい、その……感情移入しちゃって」
「狼が狸に感情移入してどうするんだ」ダークレギオンはシャドウファングを睨んだ。「そんなことじゃ、親父が泣くぞ」
「はぁ……すみません」
とりあえず、シャドウファングが頭を下げたとき、行く手にぼんやりと明るい光が見えてきた。南の岩山の麓あたりだ。
「ちょっと待て」
ダークレギオンが、そう言って足を留めた。心得たシャドウファングが、ランプの灯りを消す。二人の姿が、すっと闇に溶けた。
『あれは“枯渇水晶”の輝きよ』いつの間にか、二人の傍までやって来ていたパメラが言った。『邪竜人が儀式を始めてしまったの』
「リザお嬢さんは?」
シャドウファングは暗闇に輝く光を見据えたままで尋ねた。
『岩山の麓に大きな岩があるでしょう? ポムスの村では「石舞台」って呼ばれてる』
「うん、知ってる」
村から岩山に向かう道は山越えの登山路にかかる少し手前で、ちょっとした広場のようになっている。そこに「石舞台」と呼ばれる大きな岩があるのだ。
正確な直方体をしているので、人工物ではないかと云われているのだが、そのつるつるした面には何の細工の跡も見つけられない。岩の大きさはちょっとした寝台ほどで、上に登れば大人二人が悠々と横になれるだけの広さがあった。もっとも、高さが大人の肩あたりまでもあるので、登るのは一苦労だ。
『お嬢さんは、そこに寝かされているわ。邪竜人が何か呪力を使ったのか、ずっと気絶したままなのよ』
シャドウファングはパメラの話をダークレギオンに伝えた。
闇魔道士の表情が険しくなる。
「“枯渇水晶”が輝いているということは、もうリザは……?」
最悪の事態を考えたのか、ダークレギオンの質問は尻すぼみになった。
『無傷ってわけにはいきませんけど、まだ間に合うと思います』パメラが答える。『「石舞台」に寝かされてるお嬢さんの、右手が下に垂らされてるんです。手首が切られてて、血が滴って……ちょうど、その血が落ちてくる場所に“枯渇水晶”が置いてあります』
パメラの説明を通訳されたダークレギオンは、「それが『クリスタル家の乙女の血』か」と不愉快そうに呟いた。
「芸のない話だな」
「芸があろうがなかろうが、長いこと放っておいたら、お嬢さんの身体から血がなくなっちゃいますよ」シャドウファングは心配そうに言った。「それに“枯渇水晶”があんなにも輝いてるってことは、溜めてた力を放出しはじめてるってことじゃないですか?」
「そうだろうな……さて、どうする……?」
ダークレギオンは自問したきり、黙ってしまった。答を探すかのように、瞳だけが左右に忙しく動いている。
「ご主人さま?」シャドウファングが恐る恐る声をかけた。「あの、さっき長老から言われたんですけど──」
シャドウファングの説明を聞くダークレギオンの表情が、次第に疑わしげになっていく。
「“枯渇水晶”の働きの方向を変える、だと?」ダークレギオンは呆れたように言った。「そんなことが簡単にできるのか?」
「長老は、ご主人さまならできるだろう、みたいなことを言ってましたけど……」
シャドウファングは長老の言葉を超翻訳して言った。「どんな間抜けでも、それぐらいはできる」という長老の科白をそのまま伝えたら、ダークレギオンは邪竜人どころではなくなってしまうだろう。
「とにかく行ってみるか」ダークレギオンは決断を下した。「奴が何をしているか、この目で確かめないことには、どうしていいものやら見当がつかんからな」
『よければ、あたしが案内するけど』パメラがシャドウファングの足をつついて、そう言い出た。『奴に見つからずに様子をうかがえる場所があるの。仲間たちも、その近くに集まってるわ』
「ありがたいな」シャドウファングからパメラの提案を聞いたダークレギオンは、すぐにそれを受けた。「こちらの策も立てられないうちに見つかるのは願い下げだ」
『それじゃ、こっちへ』
パメラの先導で二人は道を外れた。雑木の間をくぐり抜け、大きく迂回して岩山に近づいていく。
──こりゃ、たぬきの姿になったほうが進みやすいや。
シャドウファングは髪に絡みつく木の葉を一所懸命に払いながら思った。髪の長さからすれば、ダークレギオンのほうがよほど木の枝や葉っぱになやまされなければならないはずなのだが、闇魔道士は一向に苦にする様子もなく、パメラの後について進んでいく。
──やっぱり年季が違うんだ……ご主人さまって小さいころから長い髪なびかせて走ってたもんなぁ。
シャドウファングが愚にもつかぬ回想にふけっているうちに、パメラは「石舞台」を間近に見ることができる岩の後ろへ二人を案内していた。周囲には何匹ものたぬきがうずくまり、邪竜人の行動をじっと見守っている。
『来たか』獣道を通って先回りしたのだろう、長老が二人を迎えた。『早く何とかせんと、あの娘の体力が
“枯渇水晶”の輝きは
邪竜人は勝ち誇った表情で一連の呪文を繰りかえしていた。
古来より伝わる ちから秘めし貴石よ。
汝を奉じ続けし 古き家の乙女の血を、
その身に受けて 我が呪文にこたえよ。
我が身に与えよ 我が望みしちからを。
呪文が繰りかえされるたびに“枯渇水晶”の輝きが波うち、一瞬、真紅に染まっては虹色に戻る。「石舞台」に寝かされているリザの手首からは間断なく血が滴っているのに、あたりには
目を凝らしたシャドウファングは、時おり“枯渇水晶”からすぅっと光が飛びだすのを見た。飛びだした光はマリグナントの胸元あたりへ吸いこまれていく。
「あれが“枯渇水晶”に溜められていた呪力なんですね」シャドウファングは、ごくりと唾を呑んで言った。「どうします? ご主人さま」
シャドウファングの問いを聞いても、ダークレギオンは答えようとしなかった。闇魔道士は、マリグナントが唱える呪文を聞き、自分も口の中でそれを繰りかえしている。
「ご主人さま?」
シャドウファングは怪訝そうに、そんな主人の様子を見つめた。
「おい」
やがて、ダークレギオンがシャドウファングを見た。
「はい、なんですか?」
「おまえとおまえの親戚とで、しばらくの間、マリグナントの気を逸らせるか?」
ダークレギオンの問いに、シャドウファングは周囲のたぬきたちを見た。パメラの兄・ラクスと視線が合う。
『できないことはない』ラクスは考えぶかげに言った。『でも、長い時間は無理だ。所詮、俺たちはたぬきで、あいつは魔物だからな』
至極もっともなこの意見を、シャドウファングはダークレギオンに伝えた。
「そんな長い間じゃない。“枯渇水晶”の働きの向きを逆にするまでの間、だ」
「方法が判ったんですか?」
シャドウファングの質問をダークレギオンはにやりと笑って受けとめた。
「答が解れば、拍子抜けするほど簡単な仕事だ」目をぱちくりさせるシャドウファングを見て、ダークレギオンは面白そうな表情になる。「あの呪文だ。あの呪文が“枯渇水晶”から呪力を放出させているんだ」
「そうみたいですね」
シャドウファングはうなずいた。主人が何を言いたいのか、まだよく解らない。
「つまり、あの呪文を逆に唱えれば“枯渇水晶”を使ってマリグナントの呪力を吸い取ることができるはずだ」
ダークレギオンの言葉に、シャドウファングは「あっ」となった。
「でもでも、ご主人さまは『クリスタル家の乙女』じゃありませんよ」
シャドウファングの間抜けな言葉に、ダークレギオンは呆れたように溜息をついた。
「“枯渇水晶”がリザの血で洗われている以上、誰が呪文を唱えようと関係なかろう」
「あ、そうか」
シャドウファングは、ぽりぽりと頭を掻く。
「一つの呪物に二つの呪文を同時にぶつけることはできない」ダークレギオンは初心者の弟子に理論を説くような調子で言った。「だから、俺が呪文を唱える間、奴を黙らせておく必要があるわけだ」
『ふむ……答を見つけたようぢゃの』長老が鼻の頭に皺を寄せて笑った。『あとは実践あるのみぢゃが……なに、そう難しいことではなかろうて』
儂はゆっくり見物させてもらうよという顔で、長老がのそのそと身体を伸ばした。
『よし、解った』ラクスが威勢良く、うなずいた。『俺たちでも魔物を牽制するぐらいはできるからな。行こうぜ、ポムス』
ラクスの合図で集まっていたたぬきたちのうち、半数ほどが立ちあがった。それを見たダークレギオンが、
「もうひとつ、やってほしいことがある」
と言った。
「何ですか? ご主人さま」
シャドウファングが尋ねる。
「マリグナントの呪力を吸い取ることに成功すれば、もう“枯渇水晶”に用はない。だから、俺が合図をしたら、おまえたちでリザをあそこから運びだしてほしい。あの娘が自力で逃げることは不可能だろうからな」ダークレギオンの目に暗い陰がさした。「何があろうとリザだけは無事に帰す、と俺はカディムに約束してきた。だから──頼んだぞ」
『かしこまりました』パメラがダークレギオンの手に柔らかな頬をすり寄せる。『お嬢さんは、必ず無事に村までお送りします』
言葉は解らないが、パメラの気持ちはダークレギオンに伝わったらしい。闇魔道士は何度も「頼んだぞ」と繰りかえして、パメラの頭をそっと撫でた。
「おい、これ」ダークレギオンは背に負っていた革袋を若者に渡した。「適当に持ってきた物ばかりだから、役に立つかどうかは判らんが」
「ありがとうございます」
シャドウファングはうなずいて、それを受け取った。
「それじゃ、行くぞ」
ダークレギオンが首から護符を外した。自らの魔力を増幅する作用もあるそれをしっかりと握りしめ、“枯渇水晶”を見つめる。
「ぼくは正面から行くよ」シャドウファングは言った。「ラクス、きみたちは向こう側から回りこんで。危ないと思ったら逃げるんだ。絶対に無理はしないで」
『解ってるって』ラクスは武者震いして応えた。『おまえこそ、無茶するなよ』
「ありがとう」
シャドウファングは
──でも、無茶しないわけにはいかないんだ。ご主人さまが何としてもリザお嬢さんを救おうとしてるんだもの。ぼくだって……!
シャドウファングは大きく息を吸うと、岩の後ろから走り出た。
ちょうど呪文と呪文との間で一息ついたマリグナントは、いきなり現われたシャドウファングの姿に一瞬、目を
『これはこれは、珍しい客人だな』邪竜人が目を細めて言った。『主人の仇討ちに来たのか?』
──そうか!
シャドウファングは思いがけない相手の言葉に、自分たちが有利な状況にあることを教えられた。
──こいつ、ご主人さまが助かったこと、知らないんだ!
これを利用しない
「リザお嬢さんを返せ! ご主人さまは最期まで、お嬢さんのことを気にかけてたんだ。ぼくが、ご主人さまの代わりに要求する! お嬢さんを返せ!」
自分の名を呼ばれたせいか、血に濡れたリザの手がひくりと動いたが、目覚める気配はない。一滴、また一滴と血が流れるたびに彼女の生命が削られていくようで、シャドウファングは微かな焦りを感じた。
『聞けんなぁ』マリグナントは顎を撫でて言った。『この娘を返してほしければ、俺様を倒すことだ。もっとも、あんな弱っちい魔道士の下僕では、俺様に指一本ふれることすら出来んだろうがな』
「そんなこと!」シャドウファングは邪竜人の態度に本気で腹を立てていた。「やってみなけりゃ判るもんか!」
シャドウファングは革袋から魚油の壷を取り出すと、いきなりマリグナントの足元に叩きつけた。壷が割れ、魚くさい油が魔物の足を浸す。
『何の真似だ!』
マリグナントが怒鳴ったとき、シャドウファングはすでに火縄を手にしていた。地面に拡がる魚油の染みをめがけ、ちろちろと燃える火縄を投げる。油はたちまち燃え上がり、マリグナントの膝あたりまで炎が舐めはじめた。だが、魔物に対しては、さして効き目がない。
『くすぐったいわ!』邪竜人は
「そっちこそ、油断大敵って言葉、知ってる?」
シャドウファングは革袋から薬草を出すと火の中に投げこんだ。ばちばちっと激しい音とともに薬草が弾ける。
『うがあっ!』
マリグナントが顔を押さえて、ばさっと宙に舞い上がった。
「やった!」
シャドウファングは、ぱちんと指を鳴らした。ダークレギオンからもらった薬草のなかに、火に入れると弾ける「花火草」の実があるのを確かめていたのだ。
この実は、すりつぶして布袋に入れておくと仄かに温かいところから懐炉として使われているのだが、まるごと火に入れると弾け飛ぶという危険な性質を持っている。実の中心に硬くて丸い種が入っており、弾けると飛びだしてくるという厄介なおまけもあった。
どうやら、邪竜人は目の当たりにその種の直撃を受けたらしい。やがて、顔から手を離したとき、憎悪に燃えてシャドウファングを睨みつけてきたマリグナントの左目は腫れあがったまぶたで半ば塞がっていた。
『貴様……よくも、よくも俺様の目を!』
マリグナントの意識はすべてシャドウファングに向けられた。“枯渇水晶”のことなど忘れ去ってしまったかのようだ。
その瞬間を逃さず、ダークレギオンは呪文を唱えはじめた。
古来より伝わる ちから秘めし貴石よ。
汝を奉じ続けし 古き家の乙女の血を、
その身に受けて 我が呪文にこたえよ。
彼の身から奪え 悪しき
一瞬、“枯渇水晶”の輝きが微妙に変わったが、じきにまた元の色合いに戻る。
『一度や二度の呪文では効かぬぞ』
長老が、のんびりと言った。
「いま何か偉そうなことを言ったろう」
仏頂面で長老を見たダークレギオンが二度目の呪文を唱えはじめたとき、マリグナントも
風よ 舞え。
舞って 斬れ。
我が敵を 斬れ!
マリグナントの周囲に幾つもの小さな竜巻が起こりはじめる。
『風使いの魔力とは便利なものだな』宙に浮いた邪竜人は両手を開き、五本の指先それぞれに竜巻を遊ばせながら言った。『居ながらにして貴様の身体をずたずたに斬り裂くことができる!』
竜巻が舞った。
シャドウファングの全身をかすめ、十個の竜巻が飛んだ。
「うわぁっ!」
今度はシャドウファングが悲鳴を上げる番だった。鋭く回転する風の塊は彼の衣服はもちろん、肌までも遠慮なく斬り刻んでいく。
『ポムス!』
岩の後ろにいたパメラが小さく悲鳴を上げそうになって、前脚で自分の口を押さえた。いまダークレギオンがしようとしていることを魔物に気づかれてしまっては元も子もないのだ。
シャドウファングは上半身の肌をほとんど露わにされていた。あちらこちらに浅く深く、斬り裂かれた傷が走っている。
『さぁて、次はどこを裂いてやろうか!』マリグナントは血を流しながら立ちつくすシャドウファングを面白そうに眺めている。『一度で片がついては面白くないからなぁ!』
再び、竜巻が生まれた。上下左右からシャドウファングに襲いかかる。
──逃げ場がない!
シャドウファングは、咄嗟に地面を蹴った。斜め上に向かって跳ね、マリグナントの足にしがみつく。
彼とすれ違う形になった竜巻が腕や足を斬り裂き、ぼとぼとと血を滴らせたが、シャドウファングは魔物の足を放さなかった。膂力に任せてマリグナントの身体をぶん投げる。
『くあっ!』
一瞬だが、かなりの遠心力がマリグナントを襲った。自慢の翼が空しく宙を泳ぎ、よろよろと失速する。
『今だ!』
反対側からひそかに近づいていたラクスが、思いきり跳躍してマリグナントの背中に体当たりをかけた。これには邪竜人もたまらず、どたりと地面に落下する。
そこへたぬきたちが殺到した。手当たり次第にマリグナントを引っかき、咬みつく。
『この獣どもがぁ!』
落下してしばらくは動くことができなかったマリグナントだが、立ちなおりは早かった。全身にたかっているたぬきたちをふるい落とし、再び宙に舞い上がる。たぬきたちの牙や爪でつけられた傷から黒い血が流れ、緋色の肌には不似合いな縞模様を描いていた。
マリグナントが両手を挙げた。指先に竜巻が生まれる。
「逃げて!」
シャドウファングが叫び、たぬきたちはわらわらと岩の後ろに逃げこんだ。一瞬おくれて、たぬきたちが集まっていたあたりに小さな竜巻が幾つも叩きつけられたが、土が散り、地面に穴が開いただけで、たぬきたちに被害を与えることはできない。
『ちょこまかしおって……!』
マリグナントは歯ぎしりして別の呪文を唱えた。
天空に集いし熱き光よ、
我が下に
我が敵を倒す剣となれ!
ぴしゃーんという大気を引き裂く音とともに、シャドウファングの鼻先に雷が落ちた。
思わず飛び
『雷剣』マリグナントの呟きに応え、落ちた雷が剣の形を取りはじめた。『喰らえ!』
大上段からの一撃をシャドウファングは転がって避けた。
──雷精の呪力だ!
鉄くさい刃風をかわす。
──すごいな、リザお嬢さんのご先祖って。雷精と云えば、相当に魔力の強い闇魔道士でも、なかなか下僕にできない魔物なのに、その呪力を奪ってるなんて!
シャドウファングは感心しながら、休みない攻撃を右に左に避けつづけた。
『逃げるのは
右から雷剣の一閃が叩きつけられ、シャドウファングは左へ跳ぼうとした。その眼前に竜巻がわき起こる。
跳ばなければ雷剣の一撃を受けることになるだろう。かと云って、跳べば竜巻に突っ込む形になる。
──上か? 下か?
そのどちらかしか逃げられる方向はなかった。だが、竜巻は信じられない速さで迫ってきて、シャドウファングの跳躍力では到底、越せそうにない高さにまで成長している。
──下なら、まだ少し隙間がある……ワーの姿じゃ無理だけど、でも!
シャドウファングは、くるんと一回転してたぬきの姿になった。背中の毛を逆立てながら竜巻の下を駆け抜ける。
『貴様ぁ!』
怒りの声を上げたマリグナントの動きが、いきなり止まった。“枯渇水晶”が今までとは違う、澄んだ光を放ってマリグナントを照らしだしたのだ。
ダークレギオンの呪文が高らかに響く。
古来より伝わる ちから秘めし貴石よ!
汝を奉じ続けし 古き家の乙女の血を、
その身に受けて 我が呪文にこたえよ!
彼の身から奪え 悪しき呪力をすべて!
目に見える勢いでマリグナントの身体から呪力が流れ出ていった。“枯渇水晶”はそのすべてを貪欲に吸いこんでいく。
背後からシャドウファングを呑みこもうとしていた竜巻が消えた。
マリグナントの手から雷剣が消えた。
そして、ダークレギオンがゆっくりと邪竜人の前に歩み出る。
『今よ!』
パメラの声が叫び、岩の後ろに控えていた残りのたぬきたちは一斉に「石舞台」へと走りよった。てんでにリザの身体を支え、とっとと退却していく。
勝利の笑みを浮かべたダークレギオンが、最後の呪文を唱えた。
古来より伝わる ちから秘めし貴石よ。
汝を奉じ続けし 古き家の乙女の血を、
その身に秘めて 我が呪文にしたがえ。
我が手に入りて 我が呪文にしたがえ!
“枯渇水晶”がふわりと浮き上がった。マリグナントの頬をかすめ、ダークレギオンの掌にすっぽりと収まる。
「もはや貴様に勝機はない!」ダークレギオンは自信あふれる態度で正八面体の水晶を懐にしまった。「とっとと異界に帰れ! さもなければ、俺の前に膝を折ってもらうぞ!」
『貴様……貴様、生きていたのか!』
マリグナントは茫然と呟いた。
闇魔道士は傲然たる態度で邪竜人に迫っていく。
「生きていたさ。貴様の呪縛など、俺の前には何の役にも立たなかったということよ!」
──ご主人さま、フカしすぎ……。
たぬきの姿がダークレギオンの目に触れないよう、こそこそと隠れながらシャドウファングは溜息をついた。
『く、くそおっ!』
マリグナントは二対の翼をはばたかせ、空へ逃れようとした。だが、いくら翼を動かしても、邪竜人の身体は地面から離れない。
「無駄無駄無駄ぁ!」ダークレギオンが勢いよく叫んだ。「貴様の呪力はすべて“枯渇水晶”が吸い取ったのだ。そんな非力な翼では、呪力の助けなしに飛び上がることさえ無理だなぁ!」
『なめるなぁっ!』
マリグナントは右拳を握り、鋭いストレートをダークレギオンの左頬に叩きこもうとした。闇魔道士は、ふわりとそれをかわす。
「遅い!」
ダークレギオンが地を蹴った。蹴った勢いを活かして宙で半回転し、マリグナントの左こめかみに右踵の回し蹴りを叩きこむ。左目を花火草の種で潰され、そちら側の視力を失っていた邪竜人には、この攻撃を避けることができなかった。ダークレギオンの全体重が乗った蹴りは、マリグナントほどの魔物をもぐらりとよろめかせる。
『すごいな、おまえの主人は』岩の後ろから様子を見ていたラクスは、隣に這いこんできたシャドウファングに向かって感嘆の声を漏らした。『魔道士というよりは格闘家じゃないか』
『父さんが鍛えたんだよ』
シャドウファングが応える。
『おまえの?』ラクスは、なるほどという表情になった。『おまえの親父さんって、ワーおおかみのなかでも有名な戦士だって話だもんなぁ。うちのじーさんでさえ、ブレードファングの名前は知ってたから』
『親がすごすぎると、子どもは苦労するよ』
シャドウファングは溜息をつく。
その間に、ダークレギオンは、よろめいて膝をついた邪竜人に歩み寄っていた。いかにも無防備な動作だが、マリグナントにはもはや反撃する気力が残っていないようだ。
ダークレギオンは手にしていた銀製の護符を、マリグナントの額に押しあてた。
魔力を秘めし印よ、その魔力を解き放て!
我が言葉に導かれ、異界の存在をつつめ!
ダークレギオンの呪文を受けた護符は、むくむくと大きくなって輝く網となった。
その網が自分を包みこんでいく間も、マリグナントはまったく抵抗する気配を見せなかった。これからの境遇を静かに受け入れよう、という態度だ。
網はマリグナントを包みこみ、煌めく光球になった。光球は収束をはじめ、最後には掌に載るぐらいの大きさにまで縮んでしまう。
「さて、と」
ダークレギオンは今まで護符を提げていた鎖に光球を付けた。首にかけて、ゆらゆらと揺らしてみる。
「いざという時には使えるな」
呟いた闇魔道士は、あらためて周囲を見まわした。先刻、シャドウファングが撒いた魚油が燃えているほかは灯りらしい灯りもない。魚油の炎も、そろそろ寂しくなりつつあった。
「シャドウファング!」ダークレギオンは呼んだ。「シャドウファング! ランプを持ってこい! 帰るぞ!」
『下僕使いの荒い主人だよな』ラクスはしみじみと呟いてから尻尾を振った。『じゃ、またな、ポムス。お嬢さんは、パメラたちが村まで連れていったから安心しな。また森へ来いよ!』
言うだけ言うと、ラクスは残っていたたぬきたちを連れて、さっさと行ってしまった。
「シャドウファング!」
ダークレギオンの声に苛立ちが混じりはじめる。
──いけない! 急がなきゃ!
シャドウファングは、くるりと一回転してワーの姿になると、狸たちが拾い集めておいてくれた衣服を身に着ける。
そして、闇魔道士主従は、ランプの灯りを頼りに村へと戻っていったのだった──。
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