A(アンチ)-1グランプリ優勝者のその後

ちびまるフォイ

アンチからの卒業

それはカクヨムユーザー間で行われたジョーク企画だった。


『Aー1グランプリ』


アンチナンバーワングランプリ、と称されたそれは

架空の作品のアンチとしてお互いに批評し合うといった異質なものだった。


「へぇ、なんだかおもしろそうじゃん」


好奇心で中を覗いてみると、存在しない作品へのアンチがわいていた。


「あんなのは結局旧作の焼き増しでしかない!」

「5章以降はクソだ! 作者の才能が枯れたんだ!」

「ヒロインを乗り換えるなんて邪道だ!」


活発な議論であったが聞いているうちに逆にストレスがたまった。

作品をこき下ろされていることにではなく、アンチの民度の低さに。


「やいやいやい! お前ら、つまんないアンチやってんじゃねぇぞぉ!」


「なんだお前?」


「俺は『異世界鑑定士ー7人の冒険者たちー』のアンチだ!!」


注:そんな作品存在しません。


「あの人気作のアンチか……! 面白いじゃねぇか!

 ファンや信者を敵に回してアンチに回ったお前の意見、聴こうじゃないか!」


なりすましアンチたちはみなこちらに耳を傾ける。


「いいだろう。まず、最初のところは他作品の――」


それから俺の大演説が何時間も行われた。

終わるころにはみんな涙を流して拍手を送っていた。


「的確で、わかりやすくて、共感しやすいすばらしいアンチだ!」


「それに比べて我々と来たら、ただのクソのぶつけ合いをしていた!」


「君こそ、A-1グランプリの優勝者だ!」


自分では意識していなかったが、アンチの才能があったらしい。

またたくまに人気アンチユーザーとなり、さまざまな作品へのコメントを求められるようになった。


「この作品はどう思う? さぁ、いつものアンチ節を見せてくれ!」


「そうだな、この作品は……」


最初は架空の作品へのアンチ活動をしていたが、

ファンはそれだけに飽き足らず本物の作品へのアンチを求め始めた。


俺がどんな切り口でコメントするのかみんなが期待していた。


「今度はこの作品へのコメントお願いします!!」


「はぁ……」


今度の作品は『異世界エルフとのハーレム生産生活』というよくあるテンプレもの。

正直、よくありすぎてこれといってアンチする部分がない。


「さてどうするかな……。安易なテンプレってことでアンチになってもいいけど

 それだとアンチとしてのひきが弱いし……まいったな」


最初は架空の作品を自分の嫌いな作品と重ねて批判していたので気持ちが乗っていた。

今では求められるままにアンチしているので、気持ちが乗らない。


まるで「これを嫌いになってください」と言われているようだ。


「あ、そうだ。作者の気に入っているポイントを探そう。

 そこをアンチとしてあげれば、ちゃんと読んでるっぽくなるだろう」


作者の近況ノートを見に行った。

近況ノートでは作者が頻繁にコメントして宣伝している。


最初こそ作中に触れていたが、最近になるにつれ日常の雑談へとシフトしていた。


『第5話投稿しました! ドワーフの森編です!』

『第6話アップしました。エルフといちゃつきたい』

『第12話アップしました。目が疲れた』

『第15話。だれかコメントください』

『第16話 これ読んでる人いるの?』



読んでいて作者のモチベーションが下がっているのがわかる。

評価もレビューも応援もされないまま自分の妄想を描き続けることのむなしさが出ているようだ。


「こんなの……アンチでとどめさせるわけないだろ……」


アンチとして作品をこき下ろすことはいくらでもできる。隙だらけだ。

でも、俺は作者として大事なことを忘れていた。


「俺はどうして忘れていたんだろう。

 作品はなにも批判されるために書いてるんじゃない。

 みんな必死に悩みながら書いているのに……それを俺は自分のためだけに……」


自分の名声のために他人を踏み台になんてできない。


「やめよう……! 作品がどんな内容でも

 楽しみにしているほかの人の邪魔なんてできない!」


俺はアンチ卒業を心に決めた。

これからは作品や作者への思いやりを大事にしていこう。


すると、近況ノートに新しいコメントが届いた。




『第17話アップ! 彼女ができました!!

 しばらく更新がなくなると思いますが応援よろしく!!!\(^o^)/』



俺はいの一番にアンチコメントを書いた。

気持ちの入った会心のアンチだと、のちに大絶賛される傑作となる。

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