二人の途上(後編)
咄嗟に顔面を庇いながら、鷹一は横に大きく横に跳躍する。
体中に小さな痛みが走る。いくつかの破片が服ごと皮膚を裂いたのである。
まるで、細かいガラスの破片が、身体を裂いたようだった。
「本当に逃げるだけでおしまいなの? せめてさ、銃とか持ってないの? あ、流石に子供に銃は持たせないってこと? つまんないなぁ!」
青年が苛立ち混じりにまた床をバットで砕いた。
攻撃が有効な範囲が十分あると知った以上、自分が今低リスクで攻撃出来る手段はない。
鷹一は、ひとまず相手の注意を引きながら、大きく距離をとることにした。
どうやら拍子抜けだったことが相当苛立ちを加速させたようで、相手は安易に鷹一を追ってきた。
逃げる最中、懐のスマートフォンの電子音が鳴り響く。相手を見ると、速畑と名前が表示されている。鷹一は、画面を睨んで舌打ちしながら、渋々応じた。
『おっ、珍しい。すぐ繋がった』
「もしくだらん用事だったら、お前を煮え湯に焚べて野犬に食わせてやるからな」
『どっからそういう怖い言葉がすらすら出てくるんだ!』
「余計なことを話している暇があったら要件を言え。こっちの状況ばわかっているだろう」
話している最中にも、青年はバットを振り上げ、狂気を露わにしながら襲い掛かってくる。
『手短に話そう。通子がすぐにお前の元に戻るとか言い出したから、一度止めた。もしタイミング悪く、通子が敵の目前に出ちゃったら、せっかく助けた人質がまた出ちゃうかもしれないから。あ、その方がお前にとっては都合良かったりする?』
「煮る前に首を落としたほうが良さそうだな」
『釜茹で確定かい! とにかく、通子は一つ下の階層で待機してる。ここぞって時にワン切りすればあがってくるから、上手く合流するんだ』
こちらに飛ばされてくる見た目より鋭利な瓦礫や、不可視の斬撃を避けながら、鷹一は下の階層をチラリと見る。が、そこから通子の姿は見えない。身を隠しているらしい。
「ドクター、敵について詳しい情報はあがっているのか」
『ああ。名前は敷留総(しきどめすべる)、年齢は二一歳、身長は一七九センチ、体重六九キロ。趣味は野球と旅行。好きな食べ物はすき焼き。それと』
「余計な情報は省け。知りたいのは能力の詳細だけだ」
『せっかく調べたのに! えーっと、敷留の能力は、触れた無機物に対して、一時的にカマイタチを纏わせる力だ。例えば鉄パイプに能力を使うと本体が剣になるんだよ。おまけに振った時の風圧も切れ味抜群らしい。だから、見た目よりリーチは長くなる』
鷹一は、自分の読みが大体当たっていたことに安堵する。中には自分の能力をごまかして騙し討ちをしてくる相手もいるからだ。
『それと、手から離れても一秒から二秒程度は能力が持続する。つまり、鉄板やなんでもない石ころが、手裏剣やクナイみたいになるってこと』
今伝えられたことも、相手にしていて勘付いてはいた。だから最初に投げられた椅子の足は、手摺りは切断したがエスカレーターには刺さるだけで終わってしまったのだろう。能力の大まかな持続時間が分かったことは大きい。
「他に注意事項は?」
『強いて言うなら、彼の近所では細切れにされたカラスや鳩の死体がたくさん発見されてるっていう情報くらいかな。まあ、無事通子と合流さえ出来れば、苦戦する相手じゃないはずだ』
「愚問だな」
『問題は、通子を呼ぶタイミングだ。ミスったら、通子の命に関わるよ』
「言われなくとも」
通子を呼ぶタイミングを見計らうため、鷹一は間合いを再度身体で確認する。
「例え俺の腕が一本飛ばされようが、アイツには掠り傷一つ負わせない」
『ヒュー、かっこいい。通子に今の台詞伝えていい?』
「わかった、釜茹でよりも酷い拷問をご所望なら、フルコースも検討させてもらう」
『って、えっ? こんだけ喋らせて釜茹では確定なの?』
速畑が抗議する声を途中で遮って通話を切る。そして、相棒の電話番号を表示し、いつでも呼び出せる状況にする。
鷹一は絶好のポジションを確保するために走りだした。
瞳孔の開いた不気味な笑みで、敷留がそれを追いかける。
「遺言を伝える時間は終わった? これで思い残すこともないっしょ!」
バットを右肩に抱えた敷留が、バットで襲い掛かってきた。
敷留は、破片を粉砕して鷹一の動きを封じてきた。そして、袋小路となっている商店や、テラスの隅へと誘導しようとする。
何も考えていないように見えるが、相手は鷹一が反撃に出るために動こうとしたのを察している。狂人に見えてしっかり立ち回りを意識していた。
鷹一は、単なる肉弾戦だけなら敷留に負ける気は全くしない。
何年も何年も、血の滲むような努力で毎日鍛錬を続け、強靭な身体を作り、体術を覚えた。それは今でも変わらず、休みの日には必ず己を鍛えている。
しかし、それだけ鍛えても、相性を覆すのは難しい。達人とて、アクション映画のようにあっさり制圧するというのは難儀な話だ。
ましてや相手は、普通の人間ではない。常に相手を切り刻むだけのカマイタチを放つことが出来るのだ。単に剣術で向かってくる人間を相手にするのとは違う。
鷹一は、階段を背にした位置取りをするため、隙を伺う。
相性が悪くとも、このまま追い詰められるつもりはない。鍛え方は確実に自分の方が上だという自負がある。
静かに深呼吸をした鷹一は、さりげなくコートに手をかけつつ、殺気を向けながら勢い良く前進した。
敷留はそれを、業を煮やして焦ったように見たらしい。余裕の表情でバットを両手で握り直し、一本足打法のようなフォームで大きく横に振り薙ごうとする。
「ノロマ」
「なっ」
鷹一は、コートを投げつけた。丈の長いそれは、敷留の前方を全て覆った。
「子供騙しじゃんか!」
それを見て敷留はバットを構え直し、上から下へ振り落とした。
しかし、真っ二つにしたコートの先に、鷹一は居ない。
「遅い」
鷹一は、高く跳躍していた。そして、呆けた敷留の右肩を足蹴にし、さらに跳んでみせる。
「肩は、凝ってないってのぉ!」
苛立ちを込めて振り向き様に振るわれた一撃は、空を切った。
鷹一は、敷留を踏み台に直上していたのだ。
前に逃げると思っていた敷留の読みが、外れたのだ。
「左も結構凝っていそうだ」
と言って、左肩目掛けて放たれた左足を、敷留はやむを得ずバットで受け止めようとする。
そのままバットを踏みつければ、刃に自ら足をぶつけるようなものだ。
しかし、鷹一は予測していた。
彼の足は、バットのグリップ部分を思い切り踏みつけ、それを足場として大きく前方へと跳躍した。
なんとかバットを手放さずに済んだ敷留だったが、重さに耐え切れず片膝を付く羽目になる。
跳躍の最中、鷹一はポケットに手を入れた。
そして、階段を背にすると、真っ向から相手の目を睨み付けた。
「ま……全く嬉しくないマッサージだったね。こいつはチップを奮発しないといけないかな」
右肩を回しながら、敷留が声を静かに荒げて答える。額にシワが寄っているのを見るに、かなり怒りを買ったようだ。
「最後に聞く。投降しておとなしく豚箱に入る気はないか」
「はぁ? ここで命乞いすんの? まったくさぁ……」
敷留が、さっきにも増して怒気を強くする。苛立ちがいよいよ態度に出始めていた。
「興醒めさせないでくれよ! 命乞いするだけの無抵抗野郎なんて、歯応えないんだからさぁ」
「忠告はしたぞ」
呆れ返った声で吐き捨てた鷹一は、学ランの上を脱ぎ捨てた。やや使い古された感のあるワイシャツの背中には、二つほど何かに食い破られたような穴が空いていた。
「通子、頼む」
「はい、準備は出来てます」
投げ捨てられた服を受け取ったのは、階段を登ってきていた通子だった。
彼女は両手を祈るように重ね、ゆっくりと目を瞑る。
「お前の病院送りが先だったらしいな」
鷹一がそうつぶやくと、背中から巨大の羽が飛び出した。
「な、ちょ、は……?」
狂気で突き進んでいた敷留は、少年の様子が一変したのを見て、表情を引きつらせた。
否、一変どころではない。鷹一の背中生えてきたのは、猛禽類のような猛々しい羽だった。
人間が喉から手が出る程欲しがっても、手に入れられなかった、鳥類にとって最大の力。
「ガァァァァァァァァッ!」
さらに両腕と両足の筋肉が盛り上がったかと思うと、鷹一は空気を震わせるほどの雄叫びをあげた。人間の口から出たとは思えない、咆哮だ。
突然の変貌を目の当たりにして、敷留の顔から脂汗が滲み出てくる。
「あ、足が速いだけのEAPじゃ、なかったの、か」
腰は抜かさなかったが、完全に度肝は抜かれていた。
「ガァァァッ!」
鷹一は、吠えると同時に敷留の首にラリアットを叩き付けた。
ぶつけられた敷留は、カエルが潰れたような声をあげ、地面に薙ぎ倒される。バットも衝撃で手放してしまった。
一瞬息が止まった。首が折れたかと思ったと感じるほど、凄まじい威力だった。
「く、くくく、あははは」
笑いが込み上げてきた。
悲鳴や恐怖の叫びではなく、まず乾いた笑いが口から漏れ出た。
常軌を逸した自分が、ありとあらゆる異常を上回る状況を目の当たりにして、頭が本当におかしくなったか。
泣き叫びたいぐらい、圧倒的な暴力が、服を着て目の前に立っている。一切の容赦なく、躊躇なく、相手の命をもぎ取ろうとしている。
猛獣に襲われた人は、きっと同じ思いをして死んだのだろうなと、敷留は呑気なことが頭に浮かんだ。
「あは、あはははは!」
突如、爆発的に意識が覚醒した敷留は、ポケットに手を突っ込むと、無数のコインを鷲掴みにした。そして、握り締めたコインを全て鷹一に向けて投げつける。
力なく投げられたはずのそれは、重力に強く逆らい、鷹一に牙を向いた。
身体にいくつかが掠ったことで、ワイシャツから真っ赤な血が飛び交った。
「グゥッ」
一瞬怯んだ鷹一を押し退けると、飛ばされたバットのところまで逃げ、再び握りしめる。鷹一も、羽を使って文字通り飛んで逃げて距離をとった。
「とんだ化け物じゃんか! こいつは、ぶった斬ったら最高に気持ち良いだろうねぇ!」
やりすぎなくらいバットを振りかぶり、敷留は鷹一の腰目掛けてカマイタチを纏った一撃を叩きこむ。
が、それは一撃の元に文字通り粉砕された。
「え?」
バットを持っている手に向かって、鷹一の強靭な拳がピンポイントに炸裂したのである。
「あ、あぐあぁぁぁぁっ!」
何かが割れる音が響き、敷留の手の指のほとんどが、あらぬ方向に曲がる。
バットはもはや握れなかった。
「う、ぐぐぐ、ぐおおおっ」
倒れかけた敷留の身体を、鷹一の膨張した腕が襟を掴んで安々と持ち上げた。そして、背中の羽を羽ばたかせ、空中へゆっくりと浮かび上がっていく。
「アンタ、思った以上に度胸あるな。あの吠え方は脅かしすぎたかと思ったが」
「お、お前……」
人語を介した鷹一の顔をもう一度凝視する。
瞳孔はもはや獣のそれだが、理性を感じさせる笑みがそこにあった。
「アンタの能力が、人体に直接発動出来るようなものじゃなくて、良かったよ」
「う、くく。出来たとしても、こんな指じゃ、触れない、かな」
自分の手と声を震わせ、敷留は引きつった笑みを絶やさない。
「病院と豚箱がお前をお待ちかねだ。骨折のついでに、肩凝りも治してもらえ」
そして鷹一は、敷留の身体を地面に押し付けるように空中から叩き付けた。
獣虎鷹一の能力は、彼の血族が体内に秘めている獣の血を呼び覚まし、自らの身体に反映することである。反映出来るのは、今見せた鷹の羽と、虎の筋力の二つ。
どちらも常人離れした能力であるが、獣の血が理性を蝕むため、鷹一自身では制御することが出来ないのが欠点だ。
暴走すれば目に映る者から片っ端から叩きのめし、死に至るまで攻撃を続け、手のつけられなくなってしまう。
そこで、相棒の通子が登場する。通子の能力は言葉の通じない動物に対し、気持ちをダイレクトに伝えることが可能だ。
あくまで気持ちを伝えるだけで行動を強制することは出来ないが、彼女の性格上、大抵の動物は協力して欲しいという思いに答えてくれる。
それは、鷹一の中の獣の血も同じだ。こうして通子の力で爆発的な野生的本能を抑え、鷹一の理性が勝るように働きかけることが出来るのだ。
最もここまですぐに応対してくれるようになるまでは、長い時間を要したのだが。
例外も少なからず居るが、基本的にはこのように互いの能力を活かしたり、欠点を補ったり出来ることを考慮して、Tsのペアが編成される。
少なくとも、鷹一と通子の二名はその典型であると言える。
全てが終わり、警察が敷留を確保するのを見届けて、二人は警察が慌ただしく動き回り始めたショッピングモールを後にした。そして、二人はそんな光景が一望出来る小さな公園へと移動する。
着くや否や、通子がところどころ小さな傷を負った鷹一を見て大騒ぎした。当事者からすればたいしたことがないと感じているだけに、困り顔を浮かべるしかなかった。
「掠り傷だ。一晩寝れば治る」
「治りません! 上着はボロボロですし、コートなんて真っ二つですよ! 大丈夫なわけないです!」
どれだけ平気な顔をして平然と言い捨てても、通子は認めてはくれなかった。バイ菌が入ったらどうするのかとか、血が止まっていないだとか、忙しく彼の傷をなんとかしようとあたふたし始める。
「ここで慌てたところで、傷は塞がらないぞ」
「素直に速畑先生の治療を受けてください。もうすぐ迎えに来ますよ」
「なら、アイツから救急道具だけ奪い取って、自分でなんとかする」
「駄目です! いけません! やらせません! ちゃんと専門の人に診てもらってください!」
一見気弱に見える通子だが、時折見た目に反した頑固さを見せる。大人相手だろうが平気で悪態をつき、傍若無人にあしらう鷹一を相手にして、全く譲らないのである。
そんな通子を相手にすると、鷹一のどのような口答えも弾き返されて、気づけば何も言い返せなくなっているのだ。毎度これでは、あまりにも情けないと鷹一は頭を抱える。
「……お前には、敵わないな」
鷹一が頭を掻きながら言うのを聞いて、通子がほっとして「良かったです……」と喜んだ。この穏やかな笑顔を見せられては、完全降伏せざるを得ない。
通子が、携帯で速畑のことを呼び寄せているうちに、鷹一が、警察によって封鎖されたショッピングモールに目を向けた。
恐らく、しばらくはこのまま閉鎖状態となるだろう。EAPが起こした事件ということで、ある程度被害が出るのは織り込み済みとはいえ、エスカレーターや床など、戦いの中でだいぶ破損させてしまった。
「そういえば、ドクターに新作のコーヒーを買って行く約束だったな。せっかくだ、商店街へ買いに行くか。新しいコートも必要だ」
ショッピングモールを見ていた鷹一が、何気なく提案した。
「そうですね、先生が着いたら、一緒に行きましょう」
通子の提案に、鷹一は断固たる意志で首を振る。
「商店街はすぐそこだ。アイツが着くまでに買い物ぐらい終わる。わざわざ付き合わせてやるのも悪いだろう」
「それは、そうかもしれないですけど」
「お前にも、何か美味いものの一つでも奢りたい。いつぞやみたいにな」
犬猿の仲である速畑は、通子に言われたから仕方なくといった風だが、相棒の通子は違う、今度のことでも助けられたし、日頃の感謝を込めて何か簡単なものでも御馳走したい、と考えたのだ。
事件続きで骨休めをしていないという事情もあったし、彼なりに気を遣ったのだ。
逆に言えばそれ以上の深い意味はなかったが、通子は、急に顔を赤くして変に動揺し始めた。
「わ、私、別に御馳走になるようなこと、してませんよ」
「何を言っているんだ。通子が居なかったら、こんな傷じゃ済まなかった。お前のおかげで助かった」
カマイタチを受けたところを指差しながら、鷹一は優しく微笑んだ。普段、仮面かと思うほど無愛想な表情を貼り付けている彼が、滅多に見せない顔だった。
通子は、顔を俯かせ、もじもじしながらお辞儀をした。
「あ、あの、あの……ありがとうございます」
「礼を言っているのはこっちなのに、なんで俺が感謝されている」
鷹一が、軽く通子の額を小突いて上を向かせる。ほんのりと顔を赤くした通子が、目を丸くしていた。
そんな通子と目が合うと、鷹一まで気恥ずかしくなって、顔を背けてしまう。
「……さっさと行くぞ。ドクターを待たせたくないんだろう?」
「は、はいっ! で、でも、美味しいもの食べるなら、あんまり早くは戻れないかもしれないです」
「メールでも送っておけ。アイツのために慌てて食って、喉を詰まらせてやることなんてない」
そう言って二人は、のんびりとした足で公園を後にした。
*
ショッピングモールから少し離れた位置に、一台の車が停められた。
中から降りてきたのは、眼鏡をかけ白衣を身に纏った青年である。顔立ちはよく整っていて、爽やかな雰囲気を醸し出している。
そして彼は、迷うことなく規制線の張られたショッピングモールに向かい、それを軽々と乗り越えようとする。
が、それを見た現場の責任者らしき男性は、血相を変えて男性の元に駆けつけてきた。
「おいおいちょっとアンタ。何入ろうとしてんだ!」
「あ、すいません急に。実は僕はTsの関係者で、速畑と申します」
と言って、速畑なる青年は黒い手帳を開いて見せた。刑事は、またかとばかりに頭を抱えて息を吐き、頷いた。
「うちの捜査員が、きっちり仕事済ませたと思うんですが、二人がどこ行ったか知りませんか? 迎えに来たんですけど」
「あの二人なら、気を失った容疑者をうちらに引き渡した後、さっさとどっか行っちまいましたが」
「……え?」
速畑があっけにとられて立ち尽くす。自分は呼び出しを受けてここまでやって来たのだが、肝心の相手がいない。
しかし、トイレでも済ませているのだろうと思って、速畑はすぐ頭を切り替えて待つことにする。
しかし、何分待っても戻ってくる様子がない。これはおかしいと行動を始めた頃、短く着信を知らせる音が響いた。
連絡が来たと思い、慌ててスマートフォンを取り出すと、案の定通子からのメールだった。ホッとした速畑だったが、内容を見て目を剥いた。
「なになに、二人で買い物してきます。お待たせすると申し訳ないから、先生だけ先に帰って貰っても大丈夫です……ってなんじゃこりゃ!」
スマートフォンを叩きつけそうな勢いで速畑が叫び、周囲の警官が身を強張らせた。場の視線を一手に集めた速畑は、そのまま力無く膝をついた。
「鷹一だけならいざ知らず、通子まで僕を置いてけぼりにするなんて……!」
涙で声を震わせる速畑を大戸越ように見やりつつ、周囲の人間は自分の仕事に戻っていく。
「寂しい、虚しい……」
忙しく警察が動きまわる中、愕然と手を地に付いて落ち込む速畑の姿は、なんとも言えず異様で、ただ哀れっぽかった。
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