第10話

 さて、いままでは、『ボク』の一人称だったが、この話は、いわゆる三人称で語られる。

 まあ『私たち』『オレたち』が、あなたに語ってると思えばいい。

 そんなメタなお話はともかく、ようは特別編というわけだ。

 では、始めようか。




「ほら、あげるのだ」

 少女が、手からなにかを差し出すのをみて、マイはどぎまぎしてしまった。

 差し出されたてのひらをみると、そこには、ビスケットがあった。

 少女が言う。

「スパムやらレーションばっかだと、女の子としてアレなのだ。

オシャレはまずは、食べ物からなのだ」

 大真面目に言う少女に、マイは思わず苦笑してしまった

「な、なにがオカシイのだ」

「いやいや、なんでもないよ。

ところで、あなた、名前はなんていうんだい?」

「ワタシ?

ワタシの名前はタイガーというのだ」

「ふうん」

「なんだ、興味なさそうに」

「ああ、こういうの、なれてないんだ、ごめんね」




 マイは、今まで1人だった。

 生まれた時から、戦闘の手ほどきや、自分の能力ちからの使い方しか教えてもらっていなかった。

 そうして、あちらこちらの戦場を、たらい回しにされて、今は、ニューラグーンのビルザッハ城内にある、研究施設を破壊する任務中である。




 結果としていうと、任務は成功した。

 しかし、待ち伏せにあい、さすがの彼女も、絶体絶命の危機におちいった。

「やれやれ、私の命もここでつきるのか」

と、マイは、つぶやいた。

 と、その時

ドカン!!!

という砲撃。

 それを、煙幕にして、マイは敵中突破した。




「ありがと、助かったよ」

 マイが感謝すると、タイガーはこう返した。

「ふむ、そういう笑顔をみると、歳相応だな」

 しばらく考えた風の彼女は、唐突に

「そうだ、?」

「へ?」

「オマエみたいなのが、戦場にいるのが、おかしいのだ。

そうだ、それがいい」

 1人勝手に納得してるタイガーに、マイは困惑するばかりだった。

 かたわらでは、ビルザッハ城からなんとかいっしょに逃げだした、アイと呼ばれていた少女が、すうすう寝ている。




 それより5年ほど経ち、マイは今小田原学園の正門の前にいる。

 タイガーの言ったことを、実践したわけではないが、なんとなく頭の片隅に残っていたのだろうか?

 それは彼女にしかわからないが、こうして彼女は学園生活の第一歩を踏み出そうとしている。




 という訳で、このお話は終わりだ。

 うん、お前らは誰だって?

 まあ、あえて言うと『オレたち』が、一番に近いので、そう言っておこうか。

 ともあれ、しばらくはまた出ないので、安心したまえ。

 さて、話を『ボク』が語る今に戻そう。

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