第3話 お腹が空きました(泣)



 アイゼンマッシュターテロン。

 言わずもがな目の前のキノコっぽいカメの魔物のことだ。

 そして俺はいまからヤツを殺る。

 生きるためにだ。


 甲羅の毒はアノ世への片道切符だが、どうやら体の肉は食用になるらしい。

 目が覚めてからコイツに遭遇エンカウントするまでに結構な時間がかかった。

 いまの俺のステータス見るか?


『種族「ゴブリン」

 名前「アキラ・ミカヅキ」(♀)

 LV0/10

 状態異常「空腹(弱)」』


 ナァニコレェ? 

 状態異常「空腹(弱)」。

 明らかにバッドステータスだ。

 なんとこの空腹の状態異常、(強)になると全ステータス数値が半減だそうだ。

 (弱)はちょっとした不快感程度なんだけど、(中)になると移動阻害&攻撃力と敏捷力20%低下が付加されてしまう非常に危険な状態異常バッドステータスである。


 回避方法はいたって簡単で、異常が解けるまで食いモンを食うこと。

 だからこそ今回のハンティングだ。

 そういう訳だ、死んでくれ。レッツ、SESSYO殺生!!



 地面にへばりついているカメに俺は弾かれるように肉薄し、手にもった枝槍をキノコの甲羅へ目掛けて思いっきり突き立て―――――


「ヘッ?」バキィッ!!


 ―――――ることは出来なかった。

 

 なんと枝槍は見事穂先から粉砕し、原型を留めること無く砕け散った。


 えええええーーーッ!!?

 通るとは思って無かったけど粉砕ってなによ!?

 物理防御力100は伊達じゃないのか。

 で、でもコチトラ物攻200なんだけどナァ?。


『スキル【武装破壊LV1】を取得しました』


 え? ブソウハカイ? 俺の?

 「武装破壊LV1」………てことはもしかしてだけど、俺が枝槍ぶっ壊したって言う判定?

 アレレー? まさかの自爆? オウンゴールですか?

 ウソやん。

 せっかく作った傑作(笑)だったのに。

 まあ、やろうと思えばいつでも作れるけど。


 多分だけどさあ、自分の物理攻撃力のせいとかってある?

 武器が見合ってません的な。


『【木枝の短槍 ランクGー】。物理攻撃力100以上の存在が使用すると、たちまち壊れてしまう。武具のなかでも最底辺で、もはや武具としての存在意義さえ怪しい槍。…同シリーズ:【木枝の棍棒】【木枝のナイフ】【木枝の長槍】等々』


 やっぱりな。

 アカシ先生、ぐったいみん。

 そんな大層な名前があったのか枝槍よ。

 ていうかシリーズものだったとか初耳学だわ。


 さあて、どうしようかな。

 なにか武器になるもの探さなきゃなあ。

 

『スキル【彫刻LV1】を使用し、【石のナイフ ランクEー】を作成することを推奨します』


 お? 

 石のナイフってか。

 なるほど、初期装備だねえ。

 

 石っていうと、大体どんぐらいが目安?


『マスターの頭部程度の大きさが好ましいと提案します。また、ナイフを作成するにあたって素材に適した石材は【マクレン石】【アーライト鉱石】などが付近で回収できます』


 へぇ。

 マクレン石、ねえ。

 ちなみにどんな感じの石なの?

 ルックスは?


『当該物【マクレン石】の説明をしますか?』


 するする。

 ヨロシク頼んだわ。


『了。当該物【マクレン石】の説明をします。マクレン石とは、地表に露出した岩石の一種であり、魔力を吸収しやすく、非常に軽い。が、重量に反してその硬度は折り上つきである。外見は、白い表面に特徴的な水の波紋のような黒い模様が走ったゼブラのような柄をしている。分厚い地層に押し固められたマクレン石は、地殻変動や自然災害によって地表に露出する。大気中の魔力を吸収し、石材として富んだ需要を持つ、秀でて優れた岩石である―――――というのが、王立ゼンベスト魔法大学博士号セルベス氏の発表論文「マクレン石が及ぼす利益と実害~第1章 マクレン石とは~」に記されていた情報です』


 うん。

 誰やねん。

 まあとりあえずマクレン石がどんなもんかは分かった。

 てか、シマウマとかって居るんやねこっち。


 探すか、マクレン石もといシマウマ石。

 あと1日くらいは飲まず食わずでも大丈夫らしい。

 アカシ先生情報だから間違いはない。

 ああ、ぜったい。







 めちゃくちゃ腹減った。

 ヤバイコレ、もう今「空腹(中)」になってんじゃね?


『種族「ゴブリン」

 名前「アキラ・ミカヅキ」(♀)

 LV0/10

 状態異常「空腹(やや弱)」』


 ………ナニ(やや弱)って!?

 そんな分別の仕方あんの?

 まさかの中間があったよ…。


 これって(弱)と何がどう変わるだい?

 

『了。状態異常「空腹(やや弱)」の説明をします。(やや弱)状態の付加効果は(弱)と変化はありませんが、体感的な空腹感が大幅に増します。そのためステータス的な害はありません』


 害だらけだよッ!! てか害しかないよ!?

 なによ空腹感が増すって。

 コチトラお腹と背中がくっつきそうで堪らんのだよ(怒)。

 

 おーなかが空いたろ~、おーなかが空いたろ~。


 うん。

 虚しい。

 あー、シマウマ石見つかんねえなー。

 以外と無いもんだね、シマウマ石。

 あったら目立つ外見なんだから見つけりゃコッチのモンってもんよ。

 けれどもそれが難しい。


 ザクザクと、落ち葉や枯れ枝の散乱する焦土を踏みしめていく。

 だが小さく軽いゴブリンの体と重量では、踏みしめるという表現はどうしても似合わない。

 森の中は最初よりも増して暗くなってきて、太陽の位置はだいぶ低いだろうと言うことを教えてくれる。

 堅い皮膚は裸足であっても俺の足の裏を防御してくれているが、ボロ切れみたいな腰巻きと胸に巻いたまわし布だけでは、そろそろ肌寒さを訴えて来る頃だった。


 ターテロンの位置はアカシックレコードでマークしているから、いつでも戻ることは出来る

 さ迷うようにマクレン石を探す俺は、「空腹」の状態異常が(中)状態になっていることに気がついた。


『状態異常「空腹(中)」の付加効果により、物攻、敏捷ステータスの減衰を確認しました。非常に危険な状態です、戦闘は即時回避するようにしてください』

「言ワレ、ナクテモ…」


 戦闘なんて殺る気は更々無い。

 叶うならむしろコッチから願い下げである。

 重い足取りで、ゆっくりと歩き続ける。

 さっきからシマウマ石探してキョロキョロしてたから「宝探しLV1」ってスキルが手に入った。

 なんでも目当てのモンが見つけやすくなるらしい。


『スキル【空腹耐性LV1】を取得しました』


 おん?

 やったねタエちゃん、ちょっと楽になったよ。

 なんてベストタイミングなんだ。

 空腹感と不快感がほんのり和らいだ…………気がする。


 はァ~、効果ちょーびみょー。

 お腹すいたーッ!!


 まあ、まだ猶予はあるさ。

 死ななきゃ良いんだ、死ななきゃ。

 異世界転生もの的に食いモンがなくて餓死エンドとかマジ誰トク―――うん?


 アレ?

 なんだか「宝探し」のスキルが反応を示しているようです。

 でもLV1だから大体の方角くらいしか分からん。

 むぅ。


『スキル【宝探しLV1】が【宝探しLV2】にレベルアップしました』


 あらま。

 LV2になっても曖昧なのは変わらないが、大体の範囲までは分かった。

 そんならコッチの勝ちだぜベイビー。


 少しだけ軽くなった足取りで反応の出ている場所まで駆ける。

 小さな足が、黒土と枯れ葉を舞い上げていく。


 さあ「万象ノ記憶アカシックレコード」、この中からマクレン石を探して見せろッ!!

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