第4話 ゴブリン・アキラ、初陣です。



「アー………ングッ!!」


 焚き火で軽く燻ったターテロンの肉に、骨ごとカブりつく。

 豊満に蓄えた脂肪が適度に肉汁を溢れさせ、口の中を満足感で満たしていく。

 少し筋張った固めの肉も、歯に心地よい弾力を与えてくる。

 なんの味付けもしていないが、それでも充分に食べられる、というかかなり美味しい。

 ただ少し残念だったのが、血抜きだけでは除き切れなかった生臭さだろうか。

 まあ、許容範囲だろう。


『スキル【美食家グルメLV1】を取得しました』


 おん?

 なんか知らんけどスキル手に入ったわ。

 やったね。

 ひとつ目のキノコガメの足を食べ終わった。

 この肉めちゃくちゃ美味い。

 ターテロン種って総じて美味しい魔物らしいんだってさ。

 先生が言ってた。


 植物のツルで腰に巻き付けた短刀を撫でる。

 黒い波紋のような模様が入った、キラリと光る白磁の刀身だ。


『【マクレンの短刀 ランクE+】上質なマクレン石から切り出した、切れ味の高い長めのナイフ。石のナイフと同種である【マクレンのナイフ ランクEー】は、この武装のワンランク下の武器であり、若干だがリーチが短い。硬質で非常に軽量であるため、扱いやすく用途が幅広い。より堅いものを切ることに長けている』


 「彫刻LV1」がレベルアップして一気にLV3になったぞ。

 あと器用もLV2になったぜよ。

 石のナイフでマッシュターテロンを殺すことは出来たんだけどね。

 直ぐに刀身が割れて土に還ったよ。

 うん。

 だから残ったマクレン石で削り出したのがこの短刀。

 こんなんでも一応KA・TA・NAですから。


 あ、そうそう。

 ステータスで確認したんだけど、俺のレベルが上がってた。

 アカシ先生ー、ステータスオープンッ!


『了。マスターのステータスを表示します。


 種族「ゴブリン」

 名前「アキラ・ミカヅキ三日月暁」(♀)

 LV 2/10

 状態異常「火傷(弱)」


 物攻 600(「豪腕」効果:物攻×10「鬼神ノ血脈」効果:全ステ×2)

 魔攻 60(「鬼神ノ血脈」効果:全ステ×2)

 物防 60(「鬼神ノ血脈」効果:全ステ×2)

 魔防 60(「鬼神ノ血脈」効果:全ステ×2)

 敏捷 60(「鬼神ノ血脈」効果:全ステ×2)


 スキル…「暗視LV3」「剣術LV1」「隠密LV1」「逃げ足LV1」

     「穴堀LV1」「彫刻LV3」「器用LV2」「理解力LV1」

     「武装破壊LV1」「宝探しLV2」「空腹耐性LV1」

     「美食家LV1」


 ユニークスキル…「豪腕」「起死回生」「鬼神ノ血脈」「共鳴」

         「万象ノ記憶アカシックレコード


 魔法術…「火魔法術LV1」「回復魔法術LV1」


 称号…「転生者」「鬼ノ血」「名前持ちネームド


 ―――――以上です』


 ふむふむ、「鬼神ノ血脈」がステータス数値を底上げしているな………ん?

 えっ?……………「火傷(弱)」ってナンじゃあああああーーーーーいッ!!?

 

 アッツ! 口ン中アッツ!?

 肉汁で火傷とかシャレにもならんわッ!!

 てかアッツ!?


 

 ―――――ふう………。

 とりあえずもう一本。

 今度は冷ましてから…………カプッ。


「ウマァ………………………ハッ!?」


 あぶねえ、美味すぎてトリップしてたわ。

 なんだかキノコっぽい風味がまた食欲を刺激するんだわ、コレが。

 よし、これからターテロン系を見つけたら即効で食糧(確信)だね。


 んでもって、多分だけどもうすっかり夜だ。

 一応前世の知識とか駆使して火を焚いてみたけど、それでも結構暗い。

 まあそのお陰で暗視のスキルがLV3になったんだが。

 それでの完全に夜目を効かせられないくらいに暗いのである。


 …………ダジャレじゃない。無いったらない。


 とりあえず当面の目標は決まった。


 "レベルを上げて進化して、そんでもって強くなる"


 簡単に言えばレベリング。

 RPGの基本だね。

 幸いなことに、ここは地獄の奥地高レベル帯ではない。

 ランクC+以下の魔物もいっぱい住み着いている。

 それこそターテロン種とかね?


 あ、因みに「進化」については先生に聞いたンゴ。

 チョーユウシュウ、アカシックレコード。

 まるで何でもカンペキにこなす乙女ゲームの生徒会長のようジャマイカ。


 まあ今日はもう遅いし、夜は魔物も活性化するみたいだからね。

 保険で「隠密LV1」発動させて就寝としますよ。

 明日からガンバル。

 うん、絶対。

 そろそろ寝るますヨ。

 おっと、焚き火には土を掛けてと………うし消えた。


 ふあぁ~………。

 それじゃ皆さんオヤスミなさい。







『スキル【隠密LV1】が【隠密LV2】にレベルアップしました』

『スキル【隠密LV2】が【隠密LV3】にレベルアップしました』

『スキル【隠密LV3】が【隠密LV4】にレベルアップしました』


 良い朝ですね。

 おはようございますデス、諸君。

 どうやら生きて今日を迎えられたようです。

 なんだか隠密がすごい勢いでレベルアップしましたが、気にしません。



 眠い目を擦って、空を見上げる。

 もちろんそこに、青空は広がっていない。暗い木々の堅い葉が擦れているだけ。サワサワと葉音を発てる樹木は、何枚もの緑葉の壁を隔てて、明るい陽光を射し込ませている。

 雨霰のごとく降り注ぐ金色の光線は、赤茶けた焦土を僅かに日焼けさせる。

 早朝のようで、朝露が俺の顔に滴る。すこし冷たくて、涼しくもあった。

 水滴を拭って体をほぐす。

 肩やヒジ、首がパキポキと小気味良い音色を奏でる。それがすこし心地よくて、何度か首を捻ったあと、音がすべて止んだ。


「朝、ダナ………」


 こちらの世界にやって来て、初めての朝だった。


 ―――――さあ、今日が始まる。







 おほー。

 居た居た。

 ありゃ絶好の的だねえ。

 しかし、だいぶ大きいな。

 イノシシっぽいけど、なんか額に角生やしてやがるし。

 体毛がなんか赤いし。

 

 先生ー!!。

 ねえねえアレナニ?


『当該魔物【アイゼンクリムゾンボーアッシュ】の説明をしますか?』


 おーけー。

 お願いしますアカシ先生!


『了。当該魔物【アイゼンクリムゾンボーアッシュ】の説明をします。猪型魔物ボーアッシュ種の中位種であり、その燃え盛るような紅の体毛は、額にそびえる一角のもとに葬ってきた屍の生き血を吸った成れの果てと言われている。ランクはDー、初心者冒険者かけだしが相手をする魔物のなかでも能力が高く、苦戦を強いられることも多々ある。最も得意な攻撃は、瞬発力と突進を併用した角での刺突である―――――というのが魔物学者リープトン氏著書「ボーアッシュの生態」に記されていた情報です』


 出た。

 出たよ学者リープトン氏。

 久しぶりだね、アンタ。

 最近見てなかったからちょっと新鮮だわ。


 いままで聞いたなかだけだと、ヒエラルキー的には…


 ↑   サーペリテ種

     ボーアッシュ種   

     ゴブリン(俺)

 ↓   ターテロン種


 みたいな感じかな?

 ………自分メッサ弱いやん。

 えー………。

 まあ今更ではあるけどもね?


 とりあえず「火魔法術LV1」の『火弾フレイ』を発動。


 緑の手のひらに、頭大の炎の塊が吹き上がる。

 メラメラ、はたまたゴウゴウと燃え盛る火弾は、忙しなくその形を変え、一度として同じ姿をとらない。


 よーく狙ってェ…………そらッ。


「"火弾フレイ"ッ!!」


 赤い弾丸は直線の軌道を描き、暢気に草を食んでいるボーアッシュに吸い込まれていき―――――爆発した。


「ブモォォオオオオーーーッ!!!? ブヒィィンッ!?」

 

 うし、直撃。

 火が体毛に燃え移って目ェ回してら。


 そのまま黄色く濁った瞳で、手のひらをかざしている俺を見つけると、炎を纏った体のままこちらに突進してきた。

 どうやら火弾はあまり効果が無かったようだ。


 んまあ、それもそのはず。

 だってレベルアップしても魔法攻撃力60だし。

 込め粒にも満たない魔攻だしー!!


「ブムォフォォオオオオオオーーーーーッ!!!!!」


 突っ込んでくるボーアッシュへ避け様に置き土産とばかりに「火弾フレイ」をお見舞いする。

 視界を一瞬失ったボーアッシュの背後にまわって、後ろ足を短刀で一閃。

 

「ブモォッ!?」


 赤黒い血液が、浅い傷口から吹き出る。

 太い血管があったのだろう。思わぬ出血量にボーアッシュが驚愕する。

 だが決定打になる威力ではない。

 やはり、火力不足だ。

 もう一撃入れようと短刀を縦に振り抜くが、飛び退いて回避される。


「―――――チッ………」


 追従するようにボーアッシュのもとへ駆けるが、着地した瞬間ボーアッシュが地面を前足で強く踏みつけた。

 ただそれだけなら、なんの意味もない威嚇行為のようなもの。

 だが、この世界の生物ならば使えるのも当然と頷ける力。


「ナッ! マサカ『地魔法術』カ!!?」


 抜かった。

 あのターテロンでさえ扱えた魔法術を、中位種であるクリムゾンボーアッシュが使えない道理は無かった。

 

 ステータスを見なかったのが痛手だったか……畜生。


 踏みつけられた地面は、津波のように盛り上がり、俺を呑み込まんと襲い掛かってきた。

 直線的な攻撃だ、避けようとすれば避けることもできた。

 だが、魔法術を使えるという事実に対する衝撃で、一瞬だけ動きが止まった。

 だがその一瞬こそ、戦場での命取りとなりうるのだ。


「ギアァッ!!」


 土の濁流をもろに受けた。

 恐らくLV4の「地爆アスマイン」だろう。

 かなり痛い。

 ただ完璧な直撃コースは避けたからか、死んではいない。

 痛みに軋む体を起こして、力の入らない右手から、左手へ短刀を持ち変えた。


『ダメージ量総HP数値の80%をマーク。HP残量20%を切りました。ユニークスキル【起死回生】の能力により、全ステータス数値の80%が全ステータス数値にプラスされます


 ・物理攻撃力1080

 ・魔法攻撃力108

 ・物理防御力108

 ・魔法防御力108

 ・敏捷瞬発力108


 ―――――以上です。』


 は?

 え?

 【起死回生】って、あのユニークスキル?

 そんな良い感じの能力だったんだ。

 知らなかった……。

 ま、まあ。

 よし。

 仕切り直しだ、ボーアッシュ。


 これならお前を殺すことができる。


 さあ始めようか、第2ラウンド開始だ!

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