Chapter13『漫画が教えてくれた・前編』
■簡単なあらすじ■
32歳になる女性漫画家さんには、11歳になる子供がいた。
若い頃に同棲していた漫画家志望の彼との間に出来た子供。
彼女はアシスタントの仕事や、
パート勤めをしながら漫画家を目指し、子供を育てた。
これはある女性漫画家の苦悩と幸福の物語です。
■本文■
■『漫画が教えてくれた・前編』■
読み切り系の少女誌で、
細々と月々描かせてもらってるんですよ。
後は小説の挿絵とか時々入る感じで、
どうにか生活してるってところですね。
やっとね、やっとここまで来たかなぁって、
最近ようやく漫画家やってますって、
言えるようになってきました。
それまでは、家でデジアシしながら、
早朝パートとか行って、
自分の原稿を担当さんに見てもらってね、
なんか余裕無しって感じでした。
私、来年32なんですけど、
11歳になる息子がいるんですよ。
十代の頃にね……一緒に漫画家になろうね、
みたいな感じで彼と同棲してたんですよ。
親の反対を押し切ってですね……、
まぁ若さゆえの過ちといったところでしょうか、
その男がまた、口先ばっかで、漫画を描くって言っては、
趣味のホームページいじりばかりしてんですよ。
食べた御飯の写真ばっかりアップしてですね、
いつかプロになるとか言っては、
どうでもいい漫画論ばっか垂れてですね、
俺が漫画を変えてやるとか言って、
プラモデルばっかり作ってるんですよ。
でもね……私、ちょっと盲目モードだったので、
この人は漫画の歴史を変えちゃうかも!
言ってることもなんだか素敵ー!
なんて……あほでした。
面白いってことは直感の叫び声だ!
今の編集は芸術が分からないクソだ!
俺の作品で業界を震え上がらせてやる!
そんな彼の妄想をベッドの上で聞かされている間に、
ベイビーがですね……やって来たのです。
彼の子だから産みたい。そう思ってました。
立派なことを言っている彼の子供だから、
きっと素敵な子に育つに違いない。
お父さんは凄い漫画家になるんだよ!
とか、夢見がちモードに入ってたらですね……、
「ゲェッ! 堕ろせよ!」って言われたんですよ。
「ガキいたら遊び行く時、邪魔じゃん」
なんて言われて、ああこの人こそがガキなんだって、
ようやく思い始めたんですね。
堕ろす堕ろさないでモメ始めた、ある日にですね、
「お前が煩いから漫画描けねぇだろ!」とか彼が言うので、
「同棲してから漫画なんて描いてねぇじゃねぇか!
昔描いた漫画を延々あちこちの出版社に出し続けて、
うっかり採用されるの期待してるだけだろ!!
落書きばっかして遊んでプロになれんのかよ!」
って……言っちゃったんです。
その日のうちに出てっちゃいましたね、彼。
「胸糞悪ぃ! タバコ買いに行く!」とか行ってね。
帰って来ませんでしたね。
お前のタバコの自販機は、
何処まで遠くにあるんだ? って、
問い詰めたくなっちゃいました。
その頃、というか、
私、元々実家の人々と仲が良くなくてですね、
子供のことを相談しても、
「堕ろせ! 恥知らず! まったく情けない子だ!」
「あんたを産んで本当に後悔してるよ」
父と母が電話越しにこんなことを言う始末です。
姉とか兄とかも仲が良くないので、
「いつかこうなると思ってた」
「あいつは精神を病んでいる」
なんて、罵詈雑言です。
そうなったら何だか産んでやろう、
私には、この子しかいないんじゃないのか、
申し訳ないけど私と二人ぼっちになってくれないかなぁ、
なんて考え始めたんです。
そして……家族や彼氏の援助も無く、
息子を出産しました。
漫画を描きながらね……。
―中編に続きます―
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