Chapter11『原稿料と親心』

様々な美少女を生み出し、少年の心を掴み続けるFさん(44歳・男性)の漫画道――。


俺の漫画が、ちょっと売れてきた頃にですね、

親戚のおっちゃんが、工場の運転資金を

援助して欲しいなんて言い出したんですよ。


まぁ小さい頃、お世話になったおっちゃんだったもんで、

コミックの印税で入ったお金、200万円を貸したんですよ。


自分の全盛期でしたね。

チヤホヤされてね~。

サイン会とかでキャアキャア言われてね。

モテナイ貧乏学生時代が長かったんで、

なんか世界が違って見えましたね。


稼いでやる、アニメ化にもなったし、

俺は生涯漫画家だ! 

浮かれるってほどじゃなかったですけど、

ちょっと調子には乗ってましたね。

マンションと車なんか買っちゃおうかな~とかね。


そう思ってたら、実家から連絡があったんですよ。

内容はまぁ……残念な感じで、親父が入院するから、

金を援助しろとか、実家のローンが残ってるから、

マンション買わずに家に金を入れろとか、そういう感じ。


ああ、お金が入ってくると、

身内でも人が変わっちゃうんだなぁって思いましたね。

お金を貸した、おっちゃんも全くお金返してくれないしね。


幾ら稼いでるんだ? 税金対策はしてるのか?

兄の友人に税理士がいるから紹介するとか、

実家があまりにお金のことばかり話すんで、

家に金だけ入れて、距離を置くようになっちゃいましたね。

正月ぐらい顔を見せに帰って来いとか言われてもね……。

親戚一同が集まってたら、

また金のむしんをされちゃいますからね。

兄貴にも金を貸してくれとか言われてましたし。


けっきょく金か! ってちょっと腐りましたね。

俺の金目当てで近寄ってくるんか! ってね。


もう一円も貸さねぇ。俺が必死に漫画で稼いだ金だ!

とか思ってたら漫画の連載が終わっちゃったんですよ。


まぁアニメ化もなりましたし、

コミックもけっこう売れたんでね、

蓄えも多少はあったんで、余裕でしたね。


すぐに次の連載が始まりましたしね。

これもアニメ化でしょー!

なんて思ってたら打ち切り。


そりゃないでしょ!

俺の漫画夢中で読んでたじゃん!

とか思ったんですけどね、

なんかアンケートとか読んでたら、

前はもっと熱かったとか、

無駄に大ゴマばかりで話が進まないとか、

必殺技の名前叫んでるだけ。

やたら胸のデカイキャラ出して媚びてる。

イケメン登場させればいいとか思ってる。

背景が白くなったとか、

とか何処か思い当たる節も無きにしも非ずでね。

なんか上手に手抜きするようになったなぁって……。

それを見事に見抜かれてるなぁって……。


でもまぁ、売れた作品の次は一回こけるみたいなのは、

業界あるあるなんで、そんなに焦ってませんでした。

でもね……ここが漫画家のブラックホールなのかって、

次の作品も打ち切りになった時に気付きました。


ここから抜け出せるかどうかで、

漫画を一生描けるかどうかのね。


流石に2回連続打ち切りなんで、

編集部も慎重になっちゃうわけですよ。

次の作品に、なかなかゴーサインが出ない。

とか思っている間に、

アニメ化された作品なんて過去の話題になってるんですよ。

あの作家、この頃が良かったとか言われてね。


スタジオの維持費、

スタッフのお給料。

打ち切りのコミックなんて、

シャレにならないぐらい部数少ないですからね。

原稿料しか収入が期待できないんですよ。


やばい、これはスタジオ解約して、

専属スタッフさんも手放すの?

それはしょうがないとしても、

またどん底から這い上がるのって大変すぎないか?

ちょっと調子に乗って突き進んできたから、

誰も頼れる人がいねーよ!


どうなる!? どうなる!? 今更就活かよ!?

漫画の仕事しか知らねぇよ!

マクドナルドを3日で辞めた俺が就職なんて無理だよ!

じゃあ……アシスタントかよ!? おいおいマジかよ!

って流石に焦り始めた頃に、


親父が通帳と印鑑を送ってきたんですよ。

0が沢山並んだけっこうな金額が入った、

俺名義の口座でした。


聞けば兄貴が俺の仕事が不調だって気付いて、

親父に報告したそうなんですよ。

お金は今まで俺が送金していたお金だそうです。


実家のローンも親父の入院費も全部嘘で、

そうでも言わないと、俺がお金を管理できないだろうって、

親父なりに考えた挙句そうしていたそうです。

親父は憎まれ役になってくれていたんです。


お金を貸していたおっちゃんも、

その頃工場がようやく軌道に乗ったそうで、

親父から連絡を受けて、

貸した200万に利子をつけて、

直接仕事場まで足を運んでくれました。


親父、あの時のお金のお陰で、

俺は仕事に余裕を持って、また頑張れたよ。


持ってたモノは結構色々失ったけどさ……。

何が本当に大切なモノか見えたような気がするよ。

いま……昔のように売れっ子ではないけどさ、

漫画の道をしっかり自分の足で歩いて行くよ。

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