Chapter05『生涯漫画家であれ』

乙女心を魅了する少女漫画を描かれている、Nさん(29歳・男性)の漫画道――。


うち、親父もお袋も漫画家なんスよ。

そんな売れてないスけどね。


そんな親父が最近ボケてきちゃってですね、

母ちゃんの顔も分からないし、

俺のことなんて、昔馴染みの編集だって思い込んでるんですよ。


それで、嬉しそうに、

もうじき俺が生まれるみたいなことを話すんですよ。

親父の中では記憶が巻き戻っちゃっているんですね。

担当とそんな話しをしてたんだなぁっていうのが見えて、

ちょっと嬉しいような悲しいような感じなんスよ。


まぁ、そんな親父が、あまりに長々と話をするんで、

先生そろそろ原稿をって言うとね、

あ、悪い悪い。あと2Pだからさ。

とか言って、原稿を描き始めるんですよ。


ずっと同じ原稿をね……何度もね。

描き終らなくてもいいんで、

ずっと元気でいてくれよなって、

そう思いますね……。


親父、あんたの漫画のお陰で、

俺はちゃんと大人になれたよ。

俺も漫画頑張るからな!

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