Chapter03『ムスメの漫画』
児童誌でギャグ漫画を執筆されている、Yさん(45歳・男性)の漫画道――。
娘が5歳になったんですよ。
可愛くてねー。
俺、顔が残念で、職業柄出会いが無いから、
結婚も子供も無理だろうと思っていたから、
余計に嬉しくてね。
でもやっぱり漫画家の仕事ってのは不規則だから、
娘も嫁も放置ってことが多い……。
編集部は金曜に仕事が締めで、
月曜にまた編集部から鬼のように連絡が入るから、
作家サイドは、土日や祝日は休み明けの為に仕事なんよ。
休みを作る為に今回の休みは働く。
連休を取る為に今回の連休は働く。
ようするに……延々悲鳴をあげつつ描いてる。
筆の早い人とか、プロダクション持ってる人は
スタッフを上手に使って、休みをきちんと作って
いい作品を作り続けるんだけどね……。
俺はギリギリ漫画家だからね。
スタッフなんてアシ1人プラス嫁ですよ。
それでも足りない時はオカンですよ。
だから毎回、泣きそうになりながら、
毎回、搾り出しきって原稿を描き終えてる。
そういう生活を十何年も続けている。
最近は売れてる作家さんのイメージが影響してて、
漫画家って大変そうだけど、それでも儲かるし、
何よりカッコいいって思ってる子が増えてるけど、
俺のような漫画家のほうが、
圧倒的に多いのが現実だけどね……。
しかしまぁ、こういう無理な生活が続くと家庭が崩壊!
って漫画家も珍しくないわけですよ。
だけど我が家の場合は嫁が仕事を理解してくれてて、
娘がまた、良い潤滑油になってくれてるんです。
そんな娘がね絵を描くんですよ。
漫画っぽいのをね、俺のを真似してね。
やっぱ自分が漫画家なんで、
娘にもその才能があるのか!?
なんて感じで親バカでしてね。
娘は、いつも俺の傍で漫画描いてるんですよ。
『絵描くの好きか?』って尋ねると、
満面の笑みで『うん! 好き!』ってね。
将来立派な漫画家に育ててやろう、
俺が得たノウハウを教えてやろう、
なんて勝手に思い込んでいたら、娘が言うんです。
『お絵描き好き! だってお絵描きしてたら
パパの傍にいられるもん!』なんて言うんですよ。
頭をガツンと殴られたような衝撃でした。
俺、子供に気を遣われてたんですよ。
それに気づかされた途端、
目の前の原稿ほったらかしにして、
その日は娘と遊びましたね。
まぁ見事に〆切ギリギリになっちゃって、
嫁とオカンを動員して徹夜コースになりましたけどね……。
次の日、娘が描いた漫画は、
昨日行った遊園地の漫画でしたよ。
俺の宝物です。
ギリギリ漫画家だけど……家族の為にも
がんばらねーとなって、思う毎日です。
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