第2章4話:文章表現能力を鍛える方法(後編)

 前回のパートにて、日常生活の中での文章作成トレーニングを説明しました。

 自分の普段の行動を文章化して、人や物、状況などの様々なシーンをすぐに言葉として思い浮かべられるようにというものです。


 今回のパートでは、自分以外の他人を混じえて文章にする方法を説明していこうと思います。

 自分の行動を文章にするのと、他人の行動を文章にするのとで、それぞれ違いがあるのかと思う人もいらっしゃるかと思いますが、一つ大きなポイントがありますので、下記をご覧ください。


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★文章表現能力で、自分の描写と他人の描写で違うこととは?

 →他人の心は、今何を考えているかわからないということ

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 一番のポイントは、心の中で何を考えているかわからないということです。


 自分のことなら当然いま何を考えているか手に取るようにわかると思いますが、自分以外の【他人】になると、リアルタイムで何を考えているか、自分と一緒に居ないときには何を考えているかなんてこと、まず分かりません。


 しかし、物語に登場するキャラクターというのは、主人公以外にもたくさん登場するものです。彼らの行動や心情の変化についても適切に文章にしなければ、物語に面白みが出てくることは無いでしょう。


 こういう場合には、別のトレーニング方法があります。

 それが、【推測描写法】です。


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【推測描写法】とは……?

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 小説で主人公以外を書くにあたって、極論を言ってしまえば相手が何を考えているか正確な内容を書く必要はありません。

 吊り目だったら怒ってそうだなぁとか、涙目だったら悲しそうだなぁとか、そういうニュアンスで相手の感情を汲み取って予測するだけで結構です。


 むしろ、全キャラクターの全ての考えや感情がモロバレになってしまうというのも、なんだか物語に面白みが無くなってしまいます。

 こいつは何を考えているのだろうか、もしかしたらこんなことを考えているのかもしれない……

 みたいに、読者自身も主人公と一緒になって予測するくらいのほうが、物語をワクワクさせる要素として適切に機能してくれるものです。


 推測描写法とは、そんな相手の行動の中で、表情や仕草を性格に文章化することによって、どのようなことを考えているのか読者に考える猶予ゆうよを与える文章作成方法のことを言います。


 例えば、こんな描写を用意してみました。

 皆さんには、相手がどのような気持ちなのか予測できますでしょうか?


【シーン:図書室にて】

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 七月上旬の事――

 今日は図書室に山崎さんがいる。

 普段は授業が終わったら、すぐさまソフトボール部の部活に向かうというのに、珍しいこともあるものだ。


「…………」


 何か調べ物をしているのだろうか?

 一番奥のテーブル席で、何やら数冊本を開いて黙々と読んでいる。


「…………」


 その表情はやや険しく、あまり楽しい本を読んでいる風には見えない。

 本は決して分厚いわけではないし、この図書室で借りられる限りのものであれば、六法全書を読まない限りは楽しく閲覧できるものばかりだ。


 しかし山崎さんの表情は険しい。

 いつも明るい性格のムードメーカーだというのに、見慣れぬ光景を見てしまい、私は思いの外、驚いている。

 そんなに楽しくないのなら、読むことを止めればいいのに。

 気持ちに対して純粋に生き抜く山崎さんという存在としては、今の行動は異質なものを感じる。


 私は山崎さんとはあまり会話をしないので、彼女に対して今何をやっているのか遠目からだと判断することが出来ない。

 しかし――


「…………」


 同じクラスの同級生が、いつものように明るくないというのは、私もなんだか気分がすぐれなくなってしまう。

 出来る限りはなんとかしてあげたいと思うけど……


「うー…ん、山崎さんが困ること……困ること……」


 ………

 ……


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 はい、ここまでが例文です。

 結構中途半端に終わらせてしまっていますが、今回は上記の文章を元に解説をしていきます。


 今回は、私の他に『山崎さん』というキャラクターを出しました。

 文章でも説明している通り、クラスの同級生でありつつも、会話をあまりしたことがないので、どういう人か何となく分かりつつも、細かな表情までは分析しきれないという距離感でストーリーが構成されていますね。

 相手がどんな人かわからないので、外観からででしか予測ができないというやつです。


 例えば、上記の文章であれば、様々な可能性の文章を続きに付け加えることが出来ると思います。


・もしかして、期末試験の勉強で困っているのかも?

・部活の先輩に恋をしているのだろうか?

・今日の晩御飯を悩んでいるのだろうか?


 etc……


 もしも、これが相手の心をすぐ的確に説明してしまうと、物語として相手の行動を紐解くという面白さがなくなってしまいますので、クオリティは格段に下がっていくのではないかと思います。


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(例)

 七月上旬の事――

 今日は図書室に山崎さんがいる。

 きっと勉強のことで悩んでいるんだろうな


 〜終〜

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 小説はやはり人と人との絡みの中で、様々な思想が行き交った上で、物語が進展していくのが面白いのです。

 それに、人のことというのは、物語を通じて少しずつ解明していったほうが、やはりキャラクターに対する愛着感というのが丁寧につけられるのではないかと思います。


 読者としても、このキャラクターは一体どのような人なのだろうかというのをそれぞれが予測しながら物語を読んでいくことが出来ますので、読んでいる途中で面白さを含ませることができます。


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Q:では、そういう文章を作るにはどう工夫するべきか?

 →より他人の外観を丁寧に描写して、キャラクターの考えを予測できる可能性を読者に見せてあげる事が大事

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 書籍で人の感情を表す言葉一覧書みたいなものは見たことありませんか?

 あれは小説で自分以外のキャラクターをより豊かに表現するための辞書として存在しているのです。

 

例えば……


(表情)

・顔を真っ赤にしながら

・口を尖らせて

・眠たそうな表情で

・顔をしかめて


(声)

・元気が無さそうに

・しどろもどろに


(体)

・汗を流して

・膝をつき

・拳に力を込めて



 言葉の表現ってうざってぇ、って思う人もいるかもしれませんが、相手の行動をより鮮明に説明する選択肢を多く知ることで、丁寧な描写ができるようになるんですよ。

 難しい文章を書くのが面倒くさいなぁ……というのではなく、様々な文章の選択肢があるからこそ、結果的に入り組んだ文章になるのです。


 例えば相手が悲しんでいることを言葉で表現するときでも、


・体育座りで顔を伏せ(超悲しい)

・涙を流しながら(悲しい)

・拗ねた様子で(ちょい悲しい)


 という表現分けがすること出来ます。



 自分のことなら、今超悲しいとか文章で書くことはできますが、相手の場合は今の気持ちが正確にはわかりませんので、外見がどうなっているかで表現する他ありません。

 そういった意味では、ここいらで辞書というアイテムを使わなくてはいけない場面に到達しているわけです。


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★まとめ


 ここまでつらずらと文章書いて、結局何が言いたいねんって思われた方もいるでしょうから、ここで今回のおさらいをします。



◎自分以外の他人を表現する方法の鍛え方は?

 →丁寧な感情表現の文章を使って、読者が他人キャラの感情をある程度、

  予測できる文章を作り上げていく

 

  辞書を使って様々な感情表現を覚えていくと、文章表現が豊かになります

  個人的には学研が出してる『感情ことば選び辞典』ってのがオススメ

  喜怒哀楽から検索できて、細かに区分けされているので検索しやすい

  カバンに一冊入れておきたいやつですね。

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(終わりに)

 35日で執筆できるシリーズ、

 内容を重ねる毎に内容が結構入り組んできています。

 もしも意味がわからないなって思うシーンがあれば、遡ってゆっくりと見直してみてください。


 意識して少しずつ難易度は上げていますので、一気に全部読む必要はなく、少しずつレベルアップできればいいなって思っています。


 タチマチP

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