06 ヤマネコ隊アルファの進撃
06-1 斥候隊任務
――みんな、速いなあ……。
心の中で舌を巻きながら、
先行するのは、王領正規軍斥候隊第一小隊第一分隊アリタ班から二名。続いて、指揮官たる第一分隊班長。その後ろに伊羅将。そして近衛兵二名。
出発時は密に生えた樹木で陽が遮られ、発光する葉で幻想的な雰囲気だった。今朝からは、樹木がややまばらになりつつある。陽の光が時折スポットライトのように顔を照らすので、そのときはまぶしい。ただひんやりした風がしけった苔の香りを運んでくるのは、変わりない。風が心地良いので、こうして汗をかいていても、そこそこ速く進めるのだ。
気を散らさないと行軍が辛くなる。道々、この斥候任務の背景を思い返した。
「ぽっと出」の下僕が、王女の恋人として華々しく登場した。それだけでなく、花音の騎士に任命され、誉れある王室殊勲章まで叙勲された。辛い訓練も実戦も経験していないのに――。
彼らは現実から目を背け、「たまたま王女を救い出しただけ」の幸運だけと判断している。下僕の出世を苦々しく思う貴族の一派が、なにかにつけ伊羅将を排除しようと動く。あまつさえ、王室の権威についても半ば公然と陰口を叩くようになってきた。やむなく
最前線に送るのは、能力的に無理だ。お誂え向きに、王領内のさほど遠くない鉱山に、妖怪が湧出している。採鉱は中止に追い込まれ、討伐の要請が上がっている。そこなら道中も短い。討伐班でなく偵察任務の斥候班に組み入れれば、危険性も少ない。王はそう判断した。
鉱山周辺の妖怪湧出状況を調査。数・組織行動の特性等を確認の上、帰還――。それが斥候隊の任務だ。敵に発見されたときを除き、基本、戦闘はしない。要するに、討伐隊編成のための情報を収集するわけだ。
この異界では、地脈から呪力を得て、妖怪が湧出することが多いという。ちなみにネコネコマタの勢力範囲外には、巨大な地脈がある。そこには強力な妖怪が多数存在していて、猫又の接近を拒んでいるとか。何十年かに一度は連中が攻めてきて、大規模な戦争へと発展すると聞いた。
斥候チームに近衛兵を二名、追加配備したのは、陽芽だ。表向き「分隊補助」という形にはなっているが、事実上、伊羅将の護衛任務を与えられている。
政治的バーターのための形だけの斥候だと、リンは笑っていた。マジにならなくて大丈夫だと。「この武器だってほら、軽いし。行軍で疲れないぞ。それに振り回しやすそうだし。はぐれ妖怪を脅すくらいならできるさ。お前は仮にも王家の恋人だ。周囲に猛者を配備するに違いないから、倒す方は連中がやってくれるさ」――。そう語ったリンの言葉は、やはり正しかった。
そこまで手厚く保護される自分が、情けなかった。だが実際、自分の実力はゴミだ。
――でないと、花音を護ってやることなんか、できないもんな。なんだかネコネコマタ内部は、想像以上にドロドロしてそうだし……。
溜息をついたとき、休憩の合図が出た。もう昼時だから、おそらく飯だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます