05-2 つるっぱげ銅像の秘密

「本当なのかよ。こんなとこにネコネコマタの秘密蔵があるとか」


 半信半疑の伊羅将いらはたは、つい口に出してしまった。


「ええお兄様。そのとおりです」


 ここは神明学園裏庭。伊羅将を導いてきた陽芽ひなめ以外に、花音やリン、レイリィ、それにたきまで揃っている。ニンゲンの世界に来たのは初めてとのことで、瀧は妙に緊張している。もちろん全員、本物偽物入り交じった学園制服姿だ。


「ここですわ」

「ここって言われてもなあ……」


 陽芽が指しているのは、例のつるっぱげ銅像だ。初めて会ったリンに、ここで「ニセ告白」されたことを、伊羅将は思い出した。「神明学園創立者 神辺水綱かんなべみずな」と、顕彰プレートに書かれている。


「まあ見てろって。ネコネコマタじゃないと反応しないんだけどさ……」


 周囲に人がいないのを確認して、リンが台座に飛び乗る。もう一度見回してから、ハゲ頭を撫で回した。


「ドンッ――」


 なにか腹に響く音がして、伊羅将は飛び上がった。


「い、今のは……」

「蔵が開いたんだよ」


 飛び降りたリンは、スカートを払って整えた。


「パンツ見たろ、伊羅将」

「知らんよ」


 まあ実際は見えたが。色っぽい、黒レースの奴。


 ――リンの奴、下着だけは女子っぽい……というか女性っぽいんだな。


 知らない一面を見たようで、なんだか少し興奮した。男って情けないな。まあレイリィに言わせると、特に物部家の特徴みたいだけど……。


「こちらです」


 陽芽に手を引かれて見ると、銅像台座背面に、大きな開口部が開いていた。扉は下にスライドして収納されているようだ。地下に向かって階段が続いていて、壁はなにか不思議な光源で照らされている。少なくとも電気ではなさそうだから、例によって呪力かなにかなのだろう。


「こんなところに……」

「お兄様。そもそも創立者の銅像が裏庭にあるのが、おかしいではありませんか」

「そういやそうか。普通はこう、校舎前とかで、正門や運動場を睨んでそうだもんな」


 言われてみると、たしかに変だ。気づかなかった自分が間抜けに思える。


「ええそうです。裏庭なら、ほとんど人が来ません。この入口は壁との間にありますから、こうして開けていても、まず問題もありませんし」

「ハゲ頭がぴかぴかしてたのも、いたずらじゃないんだな。ネコネコマタの生徒が撫で回してたからか」

「そうです。お兄様……わたくしの彼氏候補にしては、少々お考えが足りないかと。……またセフレ第一号に格下げしようかしら」

「どうでもいいよ、そんなん。それよりここに本当に、関屋家の幻の武器が……」

「わたくしも存じ上げなかったですが、瀧さんによれば――」

「そのとおりです。陽芽様」


 瀧が認めた。


「伝承によれば、魂が宿る短剣とか」

「早く入ろうよ、はあ」


 レイリィが口を挟んだ。


「大勢でいるとこ見られたら、不審に思われるし」


 茶化しもせず、珍しく、まともな意見だ。


「じゃあ、花音から入るね」


 背をかがめて、花音が階段に踏み出した。壁も階段も薄緑。石造りのようだったが、継ぎ目などは見えない。壁に触ってみると、ひんやりしている。全員入ると、扉が自動的に閉まった。

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