03-2 精提供儀式1
精提供の関係を持ってもいいという
「その……」
「もういいよ。伊羅将くん。無理して言葉にしなくても。……恥ずかしいんでしょ」
優しく抱かれた。
「ありがとう。契約者、そして私の飼いネコ、伊羅将くん……」
河原もなにもかも消え、いつの間にかどこかの室内で、ふたりベッドに腰を下ろしている。さすが夢を司る存在だ。
「でもねえ……」
レイリィの瞳、その虹彩は、いつの間にか真紅になっている。髪の毛も同様だ。
「……まだちょっと怖いんだ。だから……」
唇が近づいてきた。柔らかそうな。
「この……くらい……で……」
唇が重なった。瞳を閉じたレイリィが、かすかに熱い息を漏らす。快感が、伊羅将の体を貫いた。ひとりでエッチなことをしているときより、何百倍も凄い。ただキスしているだけなのに。
目をつぶって、感覚に集中した。レイリィの唇が優しく動く。ふと、舌を感じた。伊羅将の舌に、おずおずと触れている。濡れていて、熱い。
すっと、なにかが体の芯を通った。どこか腰のあたりから脊椎を抜けるように。そして脳からも抜けるように。
我知らずうめくと、レイリィが優しく抱きしめてきた。柔らかな体が伊羅将を包む。夢中になって舌に応えた。
どれほど時間が経ったのだろう。気がつくとベッドに横たわっていた。伊羅将が横を向き、後ろからレイリィがくるむように抱き着いている。
――これが……。これが
恐ろしくなった。キスだけでこれなら、実際に「して」しまったら、自分はどうなるのだろう。快楽の深淵に囚えられ、逃げられなくなってしまうのではないか。その快感を絶ち切る自信はなかった。
「起きたんだね……」
優しい声が背後からした。レイリィが笑うと、密着した背中がくすぐったい。すごくいい匂いがする。安らげるような、興奮させるような……。
「素敵だったよ。伊羅将くん」
恥ずかしいので、返事はしなかった。
「ねえ。腕枕してよ」
要求に応じてあげた。
「殿方から直接命をもらうのって、こんなに気持ち良かったんだ」
なにかが体を通り抜けた感覚を、伊羅将は思い返した。やはりあれが、命の力の交接だったのだろう。
「これで……いいのか」
「……うん」
熱を持った瞳と頬で、ほっと息を吐いた。今は伊羅将の胸に手を置き、ふざけるように指を動かしている。
「キスだけだって、少しは命の力もらえるし」
この部屋は暖かく、まるでぬるま湯に頭までつかったかのようだ。そう……母親の胎内にいた頃は、こんな感覚だったのかもしれない。
「お礼に、気持ちよく寝かせてあげるね、はあ」
「もう寝てるけどな」
「ふふっ」
甘えるような笑みを浮かべた。
「この夢の世界で、眠るのよ」
伊羅将の腕に頭を載せ、仙狸の皇女は、歌を歌い始めた。奇妙な言語の歌。くちづさむように。仙狸に伝わる子守唄なのかもしれない。
柔らかな体を感じ、安らぎを覚える。極楽の眠りに、伊羅将は我知らず沈んでいった。
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