02-2 夢探偵レイリィのエッチ指南

「あたしから見たら、仙狸仙狸って奴のが、よっぽど奇妙な存在だけどな」


 リンは溜息をついた。


「ふーん……。ネコネコマタのが気味悪いけどね。とにかく政治的な陰謀が大好きだし。集団行動で相手攻めるとかも」


 レイリィは不満顔だ。


「そりゃあたしたちは、異界ってかネコネコマタの里が主な活動領域だし。はるか昔に開拓した新天地さ。あっちは自然に湧いて出る凶悪な妖怪が多いから、どうしても集団で狩る形になって、政治や統治、軍事力が進化したんだ」

「もうネコネコマタは異界に完全に引きこもりなよ。現世のネコ管理やヒト管理は仙狸に任せて」

「うーん……。どうなんだろ。そうした主張をする孤立主義者も増えてるらしいけどなー。あたしは反対かな。そもそも猫又としてのルーツはネコだ。それと離れるのは。それにヒト管理も重要な仕事だし」

「元は一緒だったのにね、仙狸もネコネコマタも」

「ああ」


 ふたりしばらく、考えに沈んだ。


 レイリィが指摘するとおり、「はじまりのネコ」と呼ばれる伝説的存在が、すべてのルーツ。猫又真祖とも呼ばれている。


 はるか古代、日本にまだ人類がいなかった頃から存在した、妖気をまとったネコだ。リビアヤマネコの系譜とされるイエネコとは異なり、日本土着の幻のヤマネコ。大陸や南方から渡ってきた人類と、彼女は接触した。そこでとあるニンゲンと関係を持ち、子を三人産む。理由は不明だがそのニンゲンと別れ、ひとりで子を育てた。


 それぞれの子孫が進化を重ね、片方はネコネコマタに、もう片方は仙狸になったと伝えられる。もうひとりの子孫もいるはずだが、それはネコネコマタの神話では語られていない。仙狸側にも……というか、聞く限り、少なくともレイリィは知らないようだ。代を重ねるうちに断絶したのだと、ネコネコマタの学者は判断している。


「仙狸は個人主義らしいな。伝説では」

「そうねえ……。ほら私たち、ひとりでも十分強いし。それに進化の途中で夢登場能力を獲得したから。夢に出るのは、単独行動が基本だしねえ」


 それもそうかと、リンは納得した。


「あとほら、淫魔の力でニンゲンとのつながりがさらに強くなったから、そっちみたいに異界に活路ー、とかなかったのよね。だってヒトがいない世界だと死んじゃうもん。精をもらえないから」

「……てことはだ、レイリィ。お前まさか、もう伊羅将いらはたから精もらってんのか。夢とかげげ現実とかで」

「うーんとお……はあ」


 首を傾げて考えている。こちらをチラチラ見ながら。


「早く話せよ。その……伊羅将の……アレ、どんなやり方するんだ?」

「してもらいたいの? リンちゃんも」

「いずれな……。って、言わせんな恥ずかしい」

「伊羅将くんの大好きな技は、逆落としね」

「さ、さかさおとしぃ!」

「そうそう。知りたい? なら教えてあげる。……いい、まずこうして」


 後ろに回ると、胸をワシ掴みにしてきた。


「それで、こう――」


 揉みながら、ふとももの下に入れた脚を絡めるようにして、開脚させようとする。


「それでえ……」


 右手が伸びてきてパンツを――。


「やめやめっ」


 リンは、手を振りほどいた。


「嘘つけっ。伊羅将がこんなにテクニカルなはずないだろ」

「あはっ。バレた」


 舌を出している。


「私、なんだかエッチが怖くて。伊羅将くんとはまだしてないよ」

「でもお前、エッチしないと死んじゃうんだろ」

「うんそう。そのうち……ね、伊羅将くんに命令……というよりお願いか、すると思うわ」

「とにかく、からかうのやめろよなっ。女同士で気色悪い」

「愛のかたちは人それぞれだよ。物部家のエッチな歴史見てきただけで、そう痛感したし。リンちゃんも、もっとエッチに耐性つけたほうがいいと思うわ、はあ。まっかじゃない」

「余計なお世話だっての。伊羅将に聞いたら、お前だって実はウブだって話じゃん」

「だから怖いんだよねー、はあ」

「ところでさ。……あんた、家族が全員その……いなくなったってわかって、どうだった。孤独で寂しかったのか」

「仙狸を滅ぼした当のネコネコマタにそれ言われると、なんかムカつくけど」


 複雑な笑みを浮かべて、レイリィが見つめてきた。


「まっ現国王の澄水すみずくんは、仙狸はネコネコマタに滅ぼされたんじゃなく、自らニライカナイに隠棲したんだって言ってるけど。百パーセント信じてるわけじゃないし。そもそも歴史は勝者が、自分の都合のいいように創るものだしねー」

「ごめん。悪気はないんだ。ただ……あたし最近、部族や家族と疎遠で辛くてさ」

「そりゃそうでしょ。リンちゃんの部族は人類殲滅派。部族決定に逆らって伊羅将くんに味方したんだもの。ここぞとばかり悪口いう連中もいるでしょうよ。リンちゃんが認めたとおり、ネコネコマタの連中は政治的な策謀が大好きだもの」

「うーん……。あたし別に逆らったわけじゃあ……」


 そう。伊羅将が大好きで、彼の気持ちに従っただけだ。それに花音姫と王家を鷹崎家の魔の手から救おうという純粋な気持ちもあったし。


「わかってる。女同士だし。……ねえ、カラオケでも行かない? 私、アニソン歌いたいんだ」

「カラオケかあ……」


 レイリィとふたり、個室で仲良くデュエットする自分を、リンは想像した。


「よし行こう。クサクサするし。……それに、なんたってあたしたち――」

「夢探偵のバディーだものねっ、はあ」


 そのとき、充電中のスマホが、着信音を奏でた。ディスプレイに表示されたのは、ネコネコマタ世界にいる花音たちとの連絡役を務めている、近衛兵のIDだ。

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