02 夢探偵レイリィのエッチ指南

02-1 物部家のエロ家訓

伊羅将いらはた、今ごろなにやってるのかなー」


 リンは、思わず口にした。


 ここは女子寮。自分の個室だ。土曜の午後なので寛いでいるところなのだが……。


 ベッドには、レイリィが横になってマンガを読んでいる。退屈だからマンガを読ませろと、押しかけてきたのだ。


 ――自分で買えよな、まったくもう。なんであたしが宿敵・仙狸なんかに……。


「ネコネコマタの王宮で、剣技訓練でしょ。リンちゃんだって知ってるくせに、はあ」


 やる気なさそうな声だ。寝転んだまま、ページをペラペラめくってる。


「そうなんだけどよ、レイリィ。きちんと役目果たしてるのか、心配でさ」

「かまって、じゃらしてほしいだけでしょ……」


 無造作にベッドにぶちまけてある柿ピーに手を伸ばすと、レイリィは口に放り込んだ。


「ま、こっちも暇なんだけどね。伊羅将くん最近忙しいから」

「騎士としての訓練に、寮母もやってるもんなー」

「退屈しのぎに、また夢探偵レイリィしようかな。リンちゃんにも協力してもらって」

「あれかあ……」


 ストーカー撃退事件を、リンは思い返した。「夢探偵レイリィ」とか勝手に名乗って、レイリィは学園の悩み事解決とかに乗り出している。自分も一応、バディー役ではある。


「まあボンデージで悪党をSM懲罰するの、面白くはあったけどな」

「なら――」

「でもほら、伊羅将と遊ぶ楽しさとは、全然違うじゃんか」

「やっぱりかまってほしいんじゃない」


 起き直ると、レイリィは、デスクのマグカップに手を伸ばしてコーヒーを飲んだ。


「それにしてもリンちゃんの部屋、すごい女の子女の子してる。超意外」


 見回してニヤけている。


「う、うるさい。かわいいもんが好きなんだから、仕方ないだろ」


 自分でもキャラじゃないなと、リンは自覚していた。ゲーセンで獲ったぬいぐるみとかネコのフィギュアが、そこらじゅうに置かれている。それにレースの敷物がテーブルに敷いてあったり、ファンシーな小物を愛用していたりもするし。


「あたし手先が不器用だからさ。逆にこういう女の子の世界みたいなのに憧れるんだよ」

「へえ……。ないものねだりか、はあ」


 くすくす笑っている。


「なんかムカつく。あんたに言われると」

「伊羅将くん、そろそろ剣技の訓練、終わった頃だと思うけど。ネコネコマタの国に行くってことで、根付持ってってくれなかったから見えないけど、きっとそんな感じだと思うわ」

「あいつに剣なんか振り回せるのかね、レイリィ」

「無理でしょ」


 あっさり言い放った。


「ただ物部家は代々、勘所はいいから。けっこう早く習熟するとは思うわ」

「あいつの祖先、そんなに才気あるのか」

「ええもう。特にエロ方面は」

「エロ……方面。なあレイリィ、聞かせろよそれ」

「赤くなってるじゃん。ウブねえ、相変わらず。ま、教えてあげてもいいわ。まず初代の吉嗣よしつぐくんの得意技は、『ひねり』ね」

「ひひ、ひねりぃ? エッチのときにか」

「ええそう。腰をこうやってえ……」


 怪しげな身振りを披露した。


「マジで、こんなことを……」

「それで二代目の公春きみはるくんは、月面宙返り」

「なんぞ、それ」

「まずこうして」


 リンはベッドに組み敷かれた。上に乗ったレイリィが、太ももを抱えて大きく開脚させる。さらに片脚だけ、ぐっと上に……。


「ああもうやめやめ」

「なによ。これから上下入り乱れての宙返りになるのに」

「もういいよ。あたし、パンツ丸出しじゃないか。……なんだか犯されそうだ。レイリィお前、エロ妖怪じゃんか」

「そんなことしないもん。淫魔とは違って、仙狸は契約者ひとすじだから」


 ふくれっ面だ。


「それにしてもリンちゃん、パンツまで女の子っぽいんだね。超意外というか奇妙というか」

「うっうるさい」

「これも夢探偵レイリィの推理対象かも。なぜリンちゃんは、黒い透けパンを好むのか……。うん閃いた。きっと昔――」

「もういいって」


 リンは手を振った。

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