01-4 人類殲滅最強硬、隷属派

「さっきの騒ぎは、これでしたか」


 陽芽ひなめにじっと見つめられた。


「まあそうなんだけどさ。ただの言い合いが、なんだか話がでかくなっちゃって、正直戸惑ってるってかさ……」


 伊羅将いらはたは、両手を広げてみせた。


 ここは王宮「合議の間」。玉座戦略会議などに用いられる小さな部屋で、特に念入りに入退室管理と情報漏洩管理が行われるという。周囲を固める兵も、戦闘力・忠誠心とも精鋭揃いらしい。


 そこに伊羅将や花音、陽芽だけでなく、闘鑼トラたきも集っていた。王女と言えどもさすがに玉座卓は使えず、脇にある円卓で全員、輪になっている。あまり使われない部屋のためだろう。静謐で少し冷たい空気に包まれている。


「姫様方のお時間まで頂戴奉り、まことに恐悦至極。愚生、感激至極にたっ奉ります。ぐ、愚生はクルメ族は関屋家嫡男、たた瀧ともも申します」


 震え声は瀧だ。カッチカチに緊張している。おそらく初めて王族に目通りしたのだろうし、無理はない。


「普通に話しなよ。瀧くん」

「いっいえ。とととんでもない。それに花音様。伊羅将様はボクをただ助けようとしただけですっ」

「経緯はもう忘れましょう。この場では今後を考えます。その場に居合わせた者として、関屋の瀧さんは、忌憚なき意見を述べてください」


 瀧に微笑みかけると、陽芽は全員にお茶を勧めた。


「それにしても、ハリマの龍造寺……」


 カップから立ち上る香気あふるる湯気の陰で、陽芽は、眉を寄せてみせた。


「これはまた、面倒な相手に絡まれましたわね。お兄様」

「知ってるの、陽芽」


 花音は心配げだ。


「ハリマ族は、人類殲滅運動の最強硬派。隷属派を標榜しています」

「隷属派って」

「それはですね。お兄様」


 天井を仰いで、一瞬、考えた。どう説明しようか検討しているといった感じだ。


「しもべは支配者の意のままにあるべき。人類は呪法で改良し、ネコの言うことのみを聞く無意志な奴隷に再構築すべきだ。それが無理なら滅ぼしてしまえ――。それが隷属派の主張ですわ」

「マジか」

「ええ。お姉様とお兄様による、王家の呪法成就にも関わらず、いまだに不満を多く抱える貴族が、部族に多いとか。龍造寺家……は、詳しく存じません。成り行きを伺うと、かなり原理主義かと。――後で調べさせておきますわ」

「イラくん。花音がなにか言ってあげようか」


 花音は心配げだ。


「やめときな、姫様」


 即座に、闘鑼が制止した。


「ロクなことにはならん」

「闘鑼の言うとおりですわ、お姉様。お姉様はすでにヒトの側に立っていると、彼らは決めつけていますから。ややこしくなるだけです」

「そうかなあ……。話せばわかってくれると思うけど……」

「それより紳士決闘ってなんだよ。隊長は、命に別状はないとか言ってたけど」

「あんなのただのアソビだ。なんてことはない」


 どうでもよさげに、闘鑼が首を振った。


「果たし合いは、どちらかが絶命するか戦えなくなるまで行う。紳士決闘ってのはな、貴族のぼっちゃん方の道楽というか、要するに相手に大打撃を加えたほうが勝ちだ。使うのは刃の類ではなく、木剣や木刀だしな」

「なんだ」


 伊羅将は、少し安堵した。


「なら、ただの試合じゃないか」

「ああそうさ。ただ家督継承者としての名誉が懸かっている。ま、貴族でもなく天涯孤独の俺にとっては意味ないが、奴らにとってはけっこうな重大事らしいぞ、負けると」


 言い切って、カップを口に運んでいる。人型のままお茶を飲んでいると、もう本当にただのイケメンといった感じだ。ネコネコマタのときの筋骨隆々からは想像つかないほど、細マッチョだし。


「そうなのか、花音」

「うん……。負けた側が実家から廃嫡されたとかいう例は、聞いたことがあるよ」

「あとまあ……」


 闘鑼が付け加えた。


「よほど運が悪いと死ぬな。木剣が目に刺さって脳まで達したとか」

「カンベンしてよ」

「安心しろ。めったには起こらないから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る