XX 獄門
XX-X 異世界。新月。処刑場。
通り抜ける風は生暖かく、むっとする湿気と鉄じみた悪臭を運んできた。
暗い。闇のようだ。新月の夜だし、分厚い雲がどんよりと空を覆ってもいる。ここネコネコマタの国で、年に一度の忌事の夜。出歩く人はほとんどいない。水枯れ谷に造られた処刑場を風が吹き抜けると、また悪臭が漂った。
と、黒装束の人物が、岩陰から頭を出した。様子を探っている。
手で進行を指示すると、もうひとりと共に、少し先にある岩まで一気に隠れ進んだ。さらに先。そして先。行く手には、腰の高さほどの岩の台がある。その陰まで走り込んだ。
「ここだ。探せ」
台の上には、人影が横たわっている。ぴくりとも動かない。それには構わず、ふたりで台の周囲を探っている。暗いのでやりにくそうだ。
「あった」
囁いた。
「奴か」
「今晩処刑されたのは、あいつだけ。間違いない」
「早くしろ」
急かすと、頭を陰から出して見回した。処刑台の周囲には墓が並ぶ。罪人の魂を救うとされる巨大な神木がそびえ、柔らかな風に枝葉を鳴らしている。
「見張りはすぐ戻ってくる」
「わかってる。……なんだこりゃ、重いな」
「
乱れた髪を掴み、処刑台脇の籠から持ち上げてみせた。溜息と共に、腰に提げた袋に収める。
「……嫌な役目だ」
「部族のためだ」
「わかってる。でもなあ……。斬首されたってことは、もう罪は償われたってことだろ。なんでそんな首なんか」
「こいつのずる賢さと執念は使えるとさ。それが評議会の判断だ」
「もう死んでるけどな」
「死んでるからいいんじゃないか。こっちの思うとおりにプログラムできるし。それに……」
「それに……なんだよ」
「俺たちは、王室には手出しできない」
「あたりまえだろ」
首を振っている。
「王族は神体だ。傷つけるなどとても」
「でもこいつはどうだ。サミエルはただのニンゲン。タブーには無関係で行動できる。実際、婚姻の席で畏れ多くも花音様に手を上げたところを、お前も見てたろ」
「……そうか」
顔を歪めた。唸るように。
「汚れた戦略だ。軽蔑するぞ、貴様」
「勘違いするな」
言いながらも、周囲を注意深く睨んでいる。
「俺の発案じゃない。もっともっと上だ。俺だってやりたくはないが、自分の氏族の立場がある。部族指導部に逆らうと、政治的に危険だからな」
「ああ、それはそうだな。あのナベシマの――」
なにか思い浮かべるように、首を傾げて天を仰いでいる。
「
「そういうことだ。ほら、もう行くぞ」
「ああ」
前後を気にしながら、男たちは闇に消えた。
雲は厚く、一晩中、空を覆うつもりらしかった。
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